建物内部に入った若葉は誰か居ないだろうかと思いながら視線を彷徨わせるが、誰一人として見つけることが出来ない。
　今来た道へと視線を向けると、銀色の車の中で刺青男が暴れている姿が見えた。
　恐らく刺青男はそれほど間を置かずにあの車から出てくると判断した若葉は、一刻も早くここから逃げることを選択する。
　選択肢は２つ。
　右の道を選ぶのか、左の道を選ぶのか。
　それぞれの道の先に何があるのか書いてある看板が壁に打ち付けられているのだが、英語で書かれているため若葉には解らない。

　「どっちに行けば良いのかな」

個人的には再婚相手が居る場所へと行きたいのが本心だ。
　あの刺青男を止められるのはきっとあの人だけだと若葉は判断しており、万が一、駄目だったとしても何かしらの対処はしてくれるだろうと思っていたときだ。

　「小娘ぇッ！！」

背後から聞こえてきた怒声に若葉はビクリと肩を震わせながら、勢いよく振り返ると刺青男が車の中から出てきていた。
　殺気だった雰囲気に気づいた若葉は命の危機を感じ取ると、ここで迷っている場合では無いと判断すると右の道へと向かって走り出す。
　捕まれば絶対に酷い目に遭うと思いながら通路をひたすら走っていると、背後から凄まじい勢いで迫ってくる足音が聞こえてきた。

　「車に戻れ！」

　「嫌です！」

　「俺様が面倒を見てやると言っているだろうが！！」

　「お断りしますッ！！」

通路を右へ左へと曲がりながら若葉は全速力で走っていた時、前方に見覚えのある人物の姿を見つけると若葉はもう大丈夫だと思えた。
　勢いを殺さないままその人へと走っていると、足音に気づいたらしいその人の視線が向けられる。
　恐怖に引きつった顔をして必死に走る若葉と、少し後ろに居る刺青男という組み合わせを見た瞬間、男は何事だ！？と言うかのように目を見張った。

　「た、助けて！！」

鬼気迫る声で若葉がそう告げた瞬間、その人の目が見た事が無い程鋭く細められつり上がっていく。
　ゆっくりと立ち上がった男の全身から怒気がゆらりと立ち上るのを見た若葉は顔を引きつらせながら男の元へと向かう。
　男、母の再婚相手の元まで辿り着いた若葉は無言のまま、彼の背後に隠れると、自分を追いかけてきていたスタースクリームへと警戒した眼差しを向ける中、再婚相手は静かではあるがどこか怒りを宿した声音で問う。

　「何をしている？スタースクリーム」

　「・・・え、いや、その閣下。えぇっと、監視対象が逃げ出したので捕まえようとしただけです」

　「ほぅ？それならば何故、コイツは俺を見て『助けて』と言ったのだ？」

　「さ、さぁ？何故でしょうか？血は繋がらぬとは言え、閣下のご息女となる御方に対して私が危害を加えるなんて事はいたしませんよ」

若葉の目論見通り、刺青男、スタースクリームはメガトロンに対して媚びへつらうかのような笑みを浮かべながら問いかけに対して返答する。
　時折、チラリと若葉の方へと視線を向けてきており、まるでその姿は話を合わせろと言うかのようなものであった。

　「・・・・」

スタースクリームと友好的な関係を築けていたのならば若葉も話を合わせるなり、助け船を出したのかもしれないが、車の中での会話は最悪であった。
　その為、若葉はスタースクリームの言いたいことは解っていたが、その誘いに乗ることはしませんと言うかのようにプイッと顔を背ける。

　「なッ！？小娘、貴様・・・」

反抗的な若葉の態度にスタースクリームは思わずそう告げた瞬間、自らの失言を悟り慌てて口元を手で覆うが全てが後の祭りであった。