メガトロンの運転する車で母の仕事場へと向かい、母と合流してから家へと戻る。
　泣き腫れた目をしている若葉に気づいた母が何か言いたげに唇を動かそうとしたが、それは声になる事が無く言葉は母の胸中へと消えていく。
　母と再婚相手とが話す他愛ない会話を聞きながら若葉はぼんやりと外の景色を見つめていた。

　「（なんか凄く疲れたなぁ）」

ここに来てからというもの目まぐるしい変化に心がついて行けていない。
　理解すべき事ばかりが多くて、受け入れなければならないことが多くて、それらに対処している内に心をどこかに置いてきてしまったかのような間隔がしていた。
　ぽっかりと胸の一部が空いてしまっていて、その空白が何かを訴えるかのようにずっと痛みを発している。
　無意識の内に若葉は上着を握りしめた時だ。

　「若葉ちゃん？」

　「ッ！？なに？」

　「・・・今日の晩ご飯は何が良いって聞いたんだけど？魚も肉も用意してあるからどっちでも良いわよ？」

　「母さんが作るの？」

　「えぇそうよ」

当たり前のことのように返された言葉に若葉は嬉しくなる。
　思い出すのは日本で過ごしていた日々、母が休みの日に作ってくれた料理ばかりだ。
　久々に母の作った煮魚を食べたいし、またはハンバーグも食べたいなぁと思いながら目を輝かせながらどう答えるべきかと考え始める。

　「もしかして何を食べようか迷ってるの？」

　「そりゃそうでしょ？だって母さんの料理って久しぶりだから」

ここに来るまでの間、母は日本での仕事を終わらせるためか日付が変わるギリギリまで帰ってこない日が続いていたのだ。
　朝は若葉が目を覚ます前にすでに出かけていて、碌に会話も交わせない日々を過ごしていた。

　「・・・そっか。そうだったわね」

　「帰るまでには何を食べたいのか決めるから、もうちょっとだけ待ってて」

子供のように顔を輝かせながら若葉は料理名を次々と考えては、うんうんと唸り声をあげながら悩み始める。
　その姿が歳よりも少しばかり幼く見えたメガトロンは若葉に気づかれないように口元を緩めて笑う。
　張り詰めたかのような雰囲気は今はなりを潜め、年相応の幼い顔をして母が作る食事を楽しみにしている若葉の顔は母親とよく似た顔をしている。

　「（血は争えんな）」

いつかは自分にもそんな顔を向けてくれれば良いなとメガトロンが思った時だ。

　「・・・ッ」

押し殺したような声をメガトロンの耳は拾い上げた。
　声のした場所は助手席で、スッと赤い目を向けてみれば苦しげな顔をして微かに頭を下げている最愛の人の姿があった。
　明らかに様子のおかしい最愛の人の姿にメガトロンは一瞬、スパークがフリーズしたの感じ取ったがすぐに我を取り戻すと声を出す。

　「どうしたッ！？」

突然車内に響いた鋭い声に若葉も異変を感じ取り前に視線を向ければ、酷く焦った顔をして母の肩を掴んでいる再婚相手の姿があった。