5章:消す事の出来ない過去の傷
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「この度は、誠に申し訳ございませんでした」
そういった母が深々と頭を下げたのを若葉は黙って見つめる事しか出来なかった。
きつく結ばれた唇、何かを堪えるかのように握られた拳、微かに震える肩、それが誰のために行われているのか若葉は知っている。
「ホント・・・コレだから困るのよ」
「子供の教育くらいちゃんとして下さる?」
「やっぱり母一人は駄目よね」
嘲笑が混じっている見下しの言葉に対し、母は反論すること無くただ謝罪の言葉を繰り返し頭を下げ続けた。
それを切っ掛けに若葉は当たり障りの無い良い子でいようと決めたのだ。
全ては母に迷惑を掛けないようにするため。
けれど気づけば自分の気持ちや感情に蓋をするようになっていて、そして自分の言葉で何かを言うことを恐れるようになってしまっていた。
「お母さんね、プロポーズされちゃった」
その言葉を聞いたとき、本当は嫌だって言いたかった。
だけど、それを言えば母はきっと再婚を止めてしまう。
今までと同じになってしまう。
それだけはもう、嫌だった。
いつだって母は娘を主体として考えていた。
娘の父になってくれる人だろうか?その事だけを主観として捉えていて、そしてそれが叶わぬと解れば別れを選んできた。
「本当にごめんなさい」
涙を流しながら交際相手の男へ別れの言葉を告げる母の姿を見るたびに、自分が最低の人間だと思えた。
どうして笑って受け入れられないのだろうか?どうして大丈夫だと言えないのか?
母の幸せを壊す自分は悪い子だ。
自分が居るから母は幸せになれない。
嫌な記憶を嫌な夢として見た。
そう思ったのと同時にゆっくりと意識が浮上してくるのを若葉は感じていた。
瞼を開こうとするが、何故か全くと言って良い程開いてはくれなかった為、ならば少しの間だけこうしていようと決めた時だ。
「こうなると解っていたから私は言ったんだ。この子に近づくな、と・・・博士の再婚に関して不安定になっている状態で言葉の通じぬ異国の地に来た。落ち着くまで待つようにと私は何度も君に対して言ったはずだが?」
「だ、だがな?たった独りで困ったように震えていたんだ!!それを無視しろとラチェットは言うのか!?」
「君が意図的に切断していた通信システムを使ってメガトロンに連絡を取れば良かっただろう?」
「うっ・・・」
覚醒しかけた意識が拾ったのは誰かが誰かに説教をするという声だった。
その二つの声が聞き覚えのあるもので、そして誰のことに関して話し合いをしていると気づいた瞬間、閉じていた目を開くのと同時に身体を起こす。
「・・・・っ!?」
すぐ近くから聞こえてきた声に若葉が視線を向ければ、そこには驚いた顔をして固まっているレノックス大佐の姿があった。
少しの間、相手の顔を凝視していた二人だったが、いち早く我を取り戻したのはレノックスだった。
「・・・?・・・・・・」
矢継ぎ早に英語で話しかけてくるが若葉にはソレを認識することが出来ず、ただ曖昧な笑みを浮かべる事しか出来ずに居た。