メガトロンとセンチネルとの間にある問題を若葉は知らない。
　ただ、なんとなくオプティマスが二人の仲を取り持つために色々と尽力をしていることだけは理解が出来た。

　「仲が悪いんですか？」

　「問題を抱えていると言った方が正しいかな・・・その問題が少し複雑すぎてね、互いに消すことの出来ない感情を抱いている。だからと言ってその感情を君にぶつけたのはセンチネルの間違いだ。彼に代って謝罪をする」

そういったオプティマスは立ち上がると若葉に向かって深々と頭を下げた。
　まさか年上の男性が、恐らく地位が高いだろう人からの謝罪に若葉は顔から血の気を引かせると勢いよくソファから立ち上がると止めてくれと言うかのようにオプティマスの肩を叩く。

　「あ、あの！本当、止めて下さい！！オプティマスさんが謝る必要なんて」

　「センチネルは謝罪しない。そういう人だ。君の母である博士にも後日お詫びに」

　「やめてよッ！！母さんには知られたくないんだからッ！！！」

言葉を取り繕うことを忘れて若葉は叫ぶような声でオプティマスへと制止の言葉を口にしていた。
　声に出してしまった瞬間、しまったというかのように若葉の顔が歪む。
　どうして自分はいつもこうなのだろうか？
　どうして自分はいつも間違えてしまうのだろうか？
　心の中でずっと押し殺してきた、見ない振りをして来た感情、それに気づいてしまったのと同時に、若葉の目から涙が溢れ出す。

　「・・・すまない」

躊躇いながらオプティマスは若葉の頬へと手を伸ばす。
　頬を濡らす涙を温かな指先が拭う。
　優しいその仕草に若葉は嗚咽をあげながら泣きじゃくることしか出来ない。涙で歪む視界の中で、心底困ったと言うかのような顔をしているオプティマスの姿が見えていて、早く泣き止まなければと思うのに涙を止める方法を忘れてしまったかのように泣き続けていた時だ。

　「オプティマス。入るぞ？何が起こるのか解らないのだから通信システムを切るなとアレだけ言っていただろう？全く・・・通信システムがいらないなら、今すぐにでも切ってしまっても私としては構わないのだが？それとも私にそうして欲しいからそういう行動をしているのか？」

ドアが開く音がした直後、苛立ちを押し殺したような声で何かを言いながら白衣を纏った一人の男性が室内に入ってくる。
　入ってきた男は室内の光景を見て唖然としたように口を開けていたが、オプティマスの前に居る若葉が泣きじゃくっている姿を見ると目の色を変えた。

　「ラ、ラチェット・・・これには事情があってだな？」

　「ほぅ？どんな事情かな？私に解るように説明してくれ」

真っ白な顔をしたオプティマスは必死に弁解しようとしているが、思うような言葉が出てくることは無いらしく、口を開いては閉じてを繰り返すだけだ。

　「君への説教はジャズとレノックス大佐を交えて行おう」

ある意味で死刑宣告とも言える言葉をラチェットが迷うこと無く告げるとオプティマスは完全に沈黙する。
　その間にラチェットは若葉へと近づくと、若葉をジッと見つめていたが気遣うかのようにそっと背中を撫でる。

　「オプティマスに虐められたのかな？根は良い奴なんだが、少々強引なところがあるから困らせてしまったようだね」

オプティマスと会話をしていたときとはまるで違う声音でラチェットは話しかける。
　その声は心から患者を気遣い、そして慈しんでいるものだ。

　「違うッ！私じゃない！！」

自身の無実を訴えるかのように声を上げたオプティマスに対し、ラチェットは黙っていろと言うかのようにジロリと青い目で睨み付けた時だ。

　「そう・・・ちがう。いつだって、悪いのは私だから」

今にも消えそうな程小さな声で若葉は告げた直後、その身体から力が抜け倒れそうになったのを見たラチェットが若葉の身体を抱きかかえた。
　焦ったような顔をして何かを言っているオプティマスの姿を最後に、若葉の意識はプツリと途切れた。