湯気の上がるコーヒーカップが差し出されたのと同時に若葉はお礼を言いながらソレを受け取る。
　若葉が普段から愛用しているカップに入っているのはブラックコーヒーだ。
　ゆらゆらと揺れる黒い液体を見つめながら若葉は両手でカップを握りしめる。

　「飲まないのかい？」

　「……まだ少し、緊張していまして」

思い出すのは先ほどの銃声。
　自分の家の前で聞こえた事に恐怖からカップを持つ手に力を込めたとき、若葉はふとある事に気づく。

　「オプティマスさん。怪我はなかったんですか？」

　「怪我などしていないよ。あの程度の攻撃など我々の前では意味を成さない」

若葉を安心させるかのように微笑んでいる口元。
　見慣れたはずのその笑み。
　ソレを見ていると若葉の背筋に嫌なモノが伝っていく。

　「（なにが可笑しいのか解らない）」

いつものオプティマスなはずなのに違和感を感じてしまう。
　オプティマスは自分を助けるためにここに来てくれたのに、彼を疑っている自分が居る事に若葉は嫌な気持ちになる。
　いつだってオプティマスは助けてくれた。

　「若葉嬢？顔色が悪いが大丈夫かい？」

案じるかのように大きな手が伸ばされるのを視界の片隅でとらえた若葉はその手から逃れるかのように身をよじる。
　微かな拒絶、それに気づいたオプティマスの手が止まったのを見た若葉は慌てて首を振ると口を開く。

　「すみません」

　「……気にしないでくれ。あぁ、ほら。暖かいモノでも飲んで落ち着くと良い」

促されるかのように言われたことに若葉は手に持っていたカップを口元へと運ぶ。
　一口飲めば香ばしい香りと共に微かな苦みがある慣れ親しんだ味が口の中に広がっていく。
　ゆっくりと息を吐き出した若葉はコーヒーを飲む。
　その間、オプティマスは他愛ない話をして若葉が落ち着くようにしてくれた。
　カップの中身が半分くらいになった頃、若葉はカップをテーブルに置くとオプティマスへと向き合う。

　「そういえばオプティマスさんはいつ戻って来たんですか？」

帰還に関して誰も教えてくれなかった。そう思いながら若葉は問う。

　「急に帰還することになったからね。事前に伝えることができなかったんだ」

　「そうだったんですね」

　「あぁ。帰還の報告を若葉嬢にしたくて軍に寄らずにここまで来たんだよ」

まさか地球に戻ってきていの一番に自分の所に来てくれるとは思ってもみなかった若葉は驚いたように目を見張る中、オプティマスは笑みを浮かべながら告げる。

　「それなのに部屋の前に居た護衛はメガトロンからの許可が無ければ会わせることはできないと邪魔をしてきたからね。排除させてもらった」

排除、穏健な彼の口かららしくない発言が聞こえた事に若葉は言葉を失う。
　困惑する若葉をオプティマスが笑みを浮かべながら見つめる。
　その顔を見つめていたとき、若葉はある事に気づく。

　目が笑ってはいない。

その事実に気づいたのと同時に、この場から逃げ出すためにソファから勢いよく立ち上がろうとしたが、足は若葉の意に反して反応してくれない。
　がくりとバランスを崩した若葉の体をオプティマスの両腕が抱き留めた。