メガトロンが部屋を出てから一時間も経たない内にインターフォンが鳴る。随分と早く来たのだなと思いながら若葉は玄関へと向かう。
　恐らく、スコルポノックがブラックアウトを急かし、早々にここに来ることになったブラックアウトの顔を想像した若葉が玄関のドアを開けようとしたときだ。
　ドア越しに聞こえてきたのは銃声音だ。

　「え？」

思わず足を止めた若葉の耳に再度銃声が届けられる。
　無意識の内に頭を抱えてその場にうずくまった若葉であったが、扉越しには戦闘がなおも行われているのか、銃声が立て続けに聞こえていたかと思えばピタリと急に止む。
　恐る恐る顔を上げた若葉は口元に手を当て、必死に息を殺していた時だ。
　ドアをノックする音が突然響く。

　「ッ！！」

口から出そうになる悲鳴を必死に喉の奥で殺す。
　怯えながらドアを見つめていると、諦めたかのようにノックの音が止む。
　恐怖で身を竦ませていた若葉は部屋の奥へと逃げようと足を動かしたときだ。

　「若葉嬢？」

聞こえてきた声に覚えたがあった若葉は足を止めると恐る恐る背後を振り返る。
　見えるドアはいつもの見慣れたドアだ。
　ソレをジッと見つめていると、再度声が聞こえてきた。

　「若葉嬢。私だ」

　「オプティマスさん？」

　「あぁ。良かった。中に居たんのだね……すまないがココを開けてくれないだろうか？君の無事を確認したい」

穏やかなオプティマスの声に若葉は安心し、ゆっくりとだがドアへと近づくと施錠を解除する。
　ドアを開いた先に立っていたのはオプティマスだ。
　顔見知りが居たことに若葉は安堵すると顔を覆って涙を流す。
　
　「大丈夫だ。もう敵は排除したから」

泣きじゃくる若葉を抱きかかえながらオプティマスは室内へと入り、ドアの施錠をするとリビングへと向かって歩く。
　オプティマスに縋りながらリビングへとやって来た若葉はソファに座ると未だ流れる涙を乱暴に手の甲で拭ったときだ。

　「そんなに乱暴にしては駄目だ」

やんわりと若葉の手首を掴んだオプティマスは上着からハンカチを取り出すと、若葉の目尻にそっと押し当てる。

　「我々と違って君たち人間は脆弱なのだからね」

労りの言葉ではるはずなのにどこか人を見下したかのような微かな毒を含んだ声でオプティマスは告げる。
　ソレが信じられなかった若葉は顔を上げ、オプティマスの顔を見つめた。
　いつもと同じはずの彼がそこには居るのだが、何故か解らないが若葉は今すぐ逃げたくなる。
　腰を無意識の内に上げていた若葉に気づいたオプティマスの手がソレを制するかのように肩に置かれた。

　「お茶ならば私が用意しよう」

　「いえ……客人にさせることでは」

　「気にしないで良い」

口元に笑みを浮かべて去って行くオプティマスはキッチンに立つとカップとコーヒーを煎れ始める。室内に漂うコーヒーの香りにだんだんと冷静になってきた若葉は今、自分がどのような状況に置かれているのか冷静に判断し始める。
　そんな若葉の姿をキッチンからオプティマスが無表情で見つめていた。