37章 託されたもの
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
満足そうにコーヒーを飲んでいるオプティマスとは対照的に若葉は死んだ魚のような目をしてコーヒーカップを持っている。
カップの中身は半分ほどになっているのだが、残りの半分はどうしても飲めそうもない。
糖分を過剰摂取した事による胸焼けで口を開くことが困難な状況となっているからだ。
サイドウェイズにいたっては隣のソファに沈んでおり、ピクリとも動かないことに嫌なことが頭によぎった若葉であったが、微かに聞こえてくる呻き声から彼が生きていることが証明された。
「突然来てしまってすまなかった」
謝罪の言葉に若葉はオプティマスの方へと体を向ける。
コーヒーカップをソーサーの上に音もなく置いたオプティマスは穏やかな眼差しで若葉を見つめてきていた。
「いえ、お気になさらず」
両手で持っているコーヒーカップを指先で触りながら若葉は言葉を返す。その後、2人とも声を出さないため、部屋の中は沈黙で満ちる。
「実は地球から離れることになってね。……とは言ってもすぐには戻ってくる予定なんだ。君たちの感覚で表現するのならば2、3週間ほどかな」
当たり前のことに言われた言葉に若葉は驚いたように数度瞬きをした後、オプティマスが人間では無いことを思い出す。
彼らの本当の姿は巨大な金属生命体であり、人間よりも遙かに優れた技術力を持っている。それ故に宇宙に行くことなど彼らにとっては当たり前の事だ。
「そうですか。お気をつけて」
わざわざ挨拶に来てくれたのだろうか?若葉がそう考えていると、オプティマスは一つ頷いた後、改まった声で告げる。
「以前、センチネルが言っていたことを覚えているかい?」
センチネル、その名を聞いた瞬間に若葉の顔が強ばる。
思い出すのは自分を見つめてくる蒼い目。
若葉という人間では無く、必要な道具としてしか見ていない視線。
無意識の内にコーヒーカップを持っていた手に力を込めたらしく、カップの中身が揺れる。
「はい。……母さんと赤ちゃんを、救えるかもしれない人がいると言っていました」
「そうだ。私は彼女に会い、そして2人を助けられる術を聞いてくる」
母と赤ちゃんが助かる可能性がある。
その言葉を聞いた若葉は胸の内が暖かくなってきた事に気づく。目の奥が熱くなり、鼻の奥が微かに痛み始め、自分が泣きそうになっているのだと理解した若葉はゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「ありがとうございます」
「気にしないでくれ。私がしたくてしていることだから」
言い終わるのと同時にオプティマスはコーヒーを飲む。
さほど量が残っていなかったのか飲み終えたオプティマスはからになったコーヒーカップをテーブルの上に置く。
「時間だな」
きっちり5分経った事を確認したオプティマスは名残惜しそうにカップから手を離す。
音もなくソファから立ち上がるのと同時に、今まで沈黙していたサイドウェイズもゆっくりと身を起こした。赤い目がまっすぐオプティマスを見つめており、何か言いたげに口を開くが結局彼は何も言わぬまま唇を閉ざす。
「若葉嬢」
「はい」
名を呼んだきり何も言わずに若葉を見つめたままオプティマスは微動だにしない。
どうしたのだろうか?と言うかのように小首をかしげたのと同時に、オプティマスの手が若葉の頬を撫でる。
「オプティマスさん?」
いつもと同じはずなのに何故か妙な違和感を抱いた若葉が話しかけるよりも早く、オプティマスの手が離れていく。
「長居をしてしまった……失礼する」
一礼をして去って行く後ろ姿を若葉は見つめる。
その背中を見ていると二度とオプティマスに会えない気がした。今すぐ声をかけるべきだ理性が声を上げるが若葉は声を出すことができない。
オプティマスを止めること、それは母と赤ちゃんの2人を助ける事ができなくなることだからだ。
狡く醜い感情が声を上げる。
「(声を、かけなきゃ。なにか言わなきゃ)」
この機会を逃してしまえばきっと取り返しのつかない事になってしまう、そう直感した若葉が必死に声を上げようとしても、唇が震えるだけで声が出てくることはない。
そうしている間にオプティマスはドアを上げて家から出て行く。
ドアが閉まる直前、ゆっくりとオプティマスが振り返ったその刹那。
互いの様々な感情が混ざり合った視線が重なった。
若葉が青い目を見つめることしかできないでいると、ドアが音を立てて閉まる。
その音を聞いたのと同時に若葉は両手で顔を覆いその場に立ち尽くすことしかできなかった。
カップの中身は半分ほどになっているのだが、残りの半分はどうしても飲めそうもない。
糖分を過剰摂取した事による胸焼けで口を開くことが困難な状況となっているからだ。
サイドウェイズにいたっては隣のソファに沈んでおり、ピクリとも動かないことに嫌なことが頭によぎった若葉であったが、微かに聞こえてくる呻き声から彼が生きていることが証明された。
「突然来てしまってすまなかった」
謝罪の言葉に若葉はオプティマスの方へと体を向ける。
コーヒーカップをソーサーの上に音もなく置いたオプティマスは穏やかな眼差しで若葉を見つめてきていた。
「いえ、お気になさらず」
両手で持っているコーヒーカップを指先で触りながら若葉は言葉を返す。その後、2人とも声を出さないため、部屋の中は沈黙で満ちる。
「実は地球から離れることになってね。……とは言ってもすぐには戻ってくる予定なんだ。君たちの感覚で表現するのならば2、3週間ほどかな」
当たり前のことに言われた言葉に若葉は驚いたように数度瞬きをした後、オプティマスが人間では無いことを思い出す。
彼らの本当の姿は巨大な金属生命体であり、人間よりも遙かに優れた技術力を持っている。それ故に宇宙に行くことなど彼らにとっては当たり前の事だ。
「そうですか。お気をつけて」
わざわざ挨拶に来てくれたのだろうか?若葉がそう考えていると、オプティマスは一つ頷いた後、改まった声で告げる。
「以前、センチネルが言っていたことを覚えているかい?」
センチネル、その名を聞いた瞬間に若葉の顔が強ばる。
思い出すのは自分を見つめてくる蒼い目。
若葉という人間では無く、必要な道具としてしか見ていない視線。
無意識の内にコーヒーカップを持っていた手に力を込めたらしく、カップの中身が揺れる。
「はい。……母さんと赤ちゃんを、救えるかもしれない人がいると言っていました」
「そうだ。私は彼女に会い、そして2人を助けられる術を聞いてくる」
母と赤ちゃんが助かる可能性がある。
その言葉を聞いた若葉は胸の内が暖かくなってきた事に気づく。目の奥が熱くなり、鼻の奥が微かに痛み始め、自分が泣きそうになっているのだと理解した若葉はゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「ありがとうございます」
「気にしないでくれ。私がしたくてしていることだから」
言い終わるのと同時にオプティマスはコーヒーを飲む。
さほど量が残っていなかったのか飲み終えたオプティマスはからになったコーヒーカップをテーブルの上に置く。
「時間だな」
きっちり5分経った事を確認したオプティマスは名残惜しそうにカップから手を離す。
音もなくソファから立ち上がるのと同時に、今まで沈黙していたサイドウェイズもゆっくりと身を起こした。赤い目がまっすぐオプティマスを見つめており、何か言いたげに口を開くが結局彼は何も言わぬまま唇を閉ざす。
「若葉嬢」
「はい」
名を呼んだきり何も言わずに若葉を見つめたままオプティマスは微動だにしない。
どうしたのだろうか?と言うかのように小首をかしげたのと同時に、オプティマスの手が若葉の頬を撫でる。
「オプティマスさん?」
いつもと同じはずなのに何故か妙な違和感を抱いた若葉が話しかけるよりも早く、オプティマスの手が離れていく。
「長居をしてしまった……失礼する」
一礼をして去って行く後ろ姿を若葉は見つめる。
その背中を見ていると二度とオプティマスに会えない気がした。今すぐ声をかけるべきだ理性が声を上げるが若葉は声を出すことができない。
オプティマスを止めること、それは母と赤ちゃんの2人を助ける事ができなくなることだからだ。
狡く醜い感情が声を上げる。
「(声を、かけなきゃ。なにか言わなきゃ)」
この機会を逃してしまえばきっと取り返しのつかない事になってしまう、そう直感した若葉が必死に声を上げようとしても、唇が震えるだけで声が出てくることはない。
そうしている間にオプティマスはドアを上げて家から出て行く。
ドアが閉まる直前、ゆっくりとオプティマスが振り返ったその刹那。
互いの様々な感情が混ざり合った視線が重なった。
若葉が青い目を見つめることしかできないでいると、ドアが音を立てて閉まる。
その音を聞いたのと同時に若葉は両手で顔を覆いその場に立ち尽くすことしかできなかった。
