何故こうなったのだ？と問いかけたくなる気持ちを必死に押さえながら若葉はソファの上に座っている。ソファの前に置かれているテーブルの上には大量のお菓子が乗っており、見るからにヤバそうな色彩を放っているソレに手を出す勇気は若葉にはない。
　チラリと視線を室内へと動かせば、母の再婚相手が険しい顔をしながら書類にサインをしたり、部下らしき男性達に次々と指示を出していた。
　凄まじい勢いで行き来をしている部下達は若葉の姿を見ると怪訝そうな顔をしたり、何も見なかったふりをしたり、不快な顔をしたりと彼等の性格を表すかのような態度をする。

　「（・・・どう考えたって私は邪魔だよなぁ）」

ここには仕事をしに来ている人達が居るのだ。
　そんな人達からして見れば何もせずにソファに座っている自分は完全に邪魔者でしかないと思いながら、若葉はコーヒーの入ったカップを両手で掴む。
　数回だけ口をつけたコーヒーはすでに温くなっており、ソレを飲む気にはなれなかった為、ユラユラと揺れる黒い水をジッと見つめているとそこには泣きそうな顔をしている自分が居た。

　「（情けない顔だなぁ）」

ため息を一つ吐いた若葉は自分の中にある感情を消すかのように、コーヒーを一口飲めば予想したとおりの味がしたため盛大に顔をしかめた時だ。

　「この処理は誰がした？」

低く唸るかのような声が部屋の中に響く。
　それだけで忙しなく動いていた男達がピシリと音を立てて固まる。
　若葉も恐る恐る声のした方へと視線を向ければ、そこには鬼すら裸足で逃げ出すかのような凄まじい形相をした再婚相手がいた。
　見るからに機嫌が最高潮に悪い男の姿を見た若葉は、我が身かわいさから何も見なかったと判断するのと同時にそっと視線を逸らし、無言のままテーブルに置かれているお菓子を手に取りソレを食べるふりをする。

　「（うわぁ・・・見た目以上に甘い）」

チョコでコーティングされたドーナツを一口食べただけだが、すさまじい砂糖の甘さにこれはある種の暴力だと若葉は思いながら目を白黒させることしかできない。

　「どうせあの愚か者が処理したのだろう？今すぐここに呼べ」

　「御意」

男の側にずっと控えていた秘書風の男が少し引きつった声で答えるのを黙って聞く。
　テーブルの上のお菓子も、このコーヒーもすべて秘書風の男が用意してくれたものだ。
　男は軍人達が居る施設には随分と不釣り合いな高そうなスーツを身に纏っており、目元には衣服とは不釣り合いな真っ赤なサングラスを着けていた。
　笑みの一つも浮かべず、言葉を交わす事も無かったが、なんとなく彼が自分を歓迎してはいないような気が若葉にはしていたため、お菓子とコーヒーのお礼だけ告げて特に何かを話す事をしなかった。

　「全く・・・何故よりにもよってエネルゴンの、」

　「メガトロン様」

再婚相手の男が嘆くかのような口調で何かを言おうとした瞬間、秘書風の男が静かではあるが有無を許さぬ声音で名を呼ぶ。
　それにより再婚相手の男は自分が何を言おうとしたのか悟ったらしく、ばつの悪い顔をしながら乱暴に頭を掻く音が妙に静かな部屋の中に響く。
　きっと部外者が聞いては色々と問題のある言葉なのだろうと判断した若葉は、自分はこの場に居ない方がに良いだろうと判断すると意を決した顔をして男の方へと視線を向ける。

　「あの・・・」

　「どうした？菓子のおかわりか？それともコーヒーか？他に欲しいものでも出来たか？」

孫を甘やかす祖父のように次々と提案してくる男に対し、若葉は違うと言うかのように首を振ると答える。

　「手が汚れたので洗いに行きたいのですが、お手洗いはどこでしょうか？」

チョコで汚れた掌を見せると男はソレが嘘ではないと判断したのか、トイレの場所を教えてくれたので若葉はお礼を告げると静かに部屋を出た。