あまりにも突然のことに若葉は目を白黒させることしかできない中、センチネルは吐き捨てるかのような口調でオプティマスに向かい告げた。

　「あの御方のお力は万能だ……お前は我らが主を疑うのか？」

何とも不敬な。
　そう暗に告げているセンチネルに対し、若葉は信じられないと言うかのような視線を向ける中、自らの非を受け入れるかのようにオプティマスは微かに頭を下げると口を開く。

　「……失言でした」

赤く腫れた頬をそのままにオプティマスはセンチネルに対して謝罪の言葉を告げ、ソレを聞いたセンチネルが満足そうに鼻を鳴らしたのを聞いた瞬間、若葉は身をよじりオプティマスの頬に手を添える。

　「大丈夫ですか？」

赤くなり微かに熱を持っている頬を労るかのように触れてきた若葉の顔を見たオプティマスは驚いたように青い目を見開いていたが、ゆっくりとその目を柔らかく細めると自身の頬に触れている若葉の手を離す。

　「問題ない」

　「でも」

　「若葉嬢」

なおも言葉を続けようとした若葉 を止めるかのようにオプティマスは少し強い声で名前を呼ぶ。

　「そろそろ博士の病室に戻らないと……メガトロンが戻ってこない君を心配する」

言い終わるのと同時にオプティマスは若葉の肩を掴み、強引に自身から引き離すと母の病室のある方へと向かい若葉を押し出す。
　紳士的なオプティマスらしくは無いその対応に若葉は数歩分、オプティマスから離れた場所に立ち尽くしながら彼を見つめると、オプティマスは大丈夫だと言うかのように頷く。
　彼が引くつもりは無い、そう判断した若葉はその場から離れようとしたとき、自身へと向けられる強い視線に気づくと恐る恐るその方へと目線を向ける。
　ジッと自分を見つめてくるセンチネルの顔には何の感情もない。
　けれど何もないからこそ若葉には恐ろしかった。
　無意識の内に先ほど掴まれた手を摩っていたとき、センチネルと若葉の間にオプティマスが立つ。

　「メガトロンの所に行きなさい」

その声に導かれるかのように若葉は彼らに背を向け、ゆっくりとではあるが一歩ずつ足を動かして前に進んでいたときだ。

　「若葉」

自分を呼ぶ声に若葉は足を止めてしまう。
　誰が自分を呼んだのかなど解っている若葉はその場に立ち尽くすことしかできずにいた。

　「お前が選んだ選択だ。忘れるな」

その言葉を聞いたのと同時に若葉は走り出す。
　さしのべられたセンチネルの手を掴んだ時のことが思い出されるのと同時に、彼の手を掴んだ手が熱くなる。
　飛び込むかのように若葉が病室へと入ると、中に居た母とメガトロンが驚いたように入り口へと視線を向けてきた。

　「どうした？」

警戒するかのように細められた赤い双眸を見た瞬間、若葉はその場を取り繕うかのような笑みを浮かべると告げる。

　「えっと……廊下にすごく、大きな虫がいて」

びっくりした、とその場しのぎの嘘を告げるとメガトロンはパチパチと瞬きをした後、呆れたように肩をすくめると安堵の息をこぼす。
　その姿を見た若葉はぎこちなく微笑みながら２人の元へと向かう。
　見えない何かに絡め取られているかのようにズキズキと痛む手に気づかぬ振りをして。