痛みを感じるほど強く握りしめられた手を振りほどきたい衝動に駆られながらも若葉にはその選択を選べない。
　それは脳裏に浮かぶ母の姿と、センチネルから告げられた言葉のせいだ。
　電灯に照らされた蒼い瞳がギラギラと輝くのを若葉が恐怖に支配されながら黙って見つめていることしかできなかったときだった。

　「センチネル」

静かではあったが強い声が聞こえたのと同時に若葉の手を掴んでいたセンチネルの手が離れる。
　そのことにホッとした若葉は背中から伝わってくる誰かの温もりと匂いに恐る恐る視線を向けた。

　「オプティマスさん」

背後から抱きしめるかのように若葉の背後に立っているオプティマスの雰囲気は今まで見たことがないほど剣呑なものだったため、思わず若葉は息を詰めて体を強ばらせる。
　若葉の知っているオプティマスはいつだって柔らかな口調と雰囲気をしていて、他者を受け入れるかのような温厚な面持ちをしていた。
　けれど、今の彼にはソレが無い。
　強靱な敵を前にしているかのような張り詰めた雰囲気で満ちている。

　「オプティマス……なんのつもりだ？」

先ほどまで若葉を掴んでいた手を摩りながらセンチネルは不機嫌そうに問う。
　微かに赤くなっていることからかなり強い力で叩き払ったのだと理解した若葉は顔から血の気を引かせた時だ。

　「それは私が聞きたいことだ……我が師よ、若葉嬢になにをしていた？」

強い声で叱咤してはいるオプティマスの顔が苦悶で歪んでいる。
　尊敬する師の愚行を咎める事への罪悪感、そして、無抵抗な者に対して師が行った一方的な暴力行為にオプティマスは誰よりも苦しんでいた。

　「私は提案しただけだ」

　「提案？」

　「そうだ。メガトロンと人間達とでは博士を助ける事は不可能であることはお前も十分知っていよう？」

センチネルからの問いかけにオプティマスかは言葉に詰まるかのようにヒュッと鋭く息を吸う。
　その音は若葉の耳にも届けられ、母の命が本当に危険に晒されているのだと理解した若葉は縋るように自身の胸元を握りしめた。
　明らかに動揺した２人の姿を見たセンチネルは満足そうに目を細めて嗤う。
　他者への優しさを捨てきれぬ愚かな２人。
　けれどその愚かさがセンチネルにとって好都合だった。

　「私ならば博士と赤子を救える」

　「……どうやって？」

そんなことは不可能だろう？そう嘆くかのようなオプティマスの言葉に対し、センチネルは当たり前のことのように告げる。

　「我らが創造主」

至極当たり前だと言うかのような口調でセンチネルが口にした言葉。
　ソレを聞いた瞬間、オプティマスの体がビクリと硬直した。
　創造主、その呼び方から凄い存在なのだな、と若葉には想像しかできない。

　「彼女が、本当に助けてくれるのか？……私にはそうは思えない」

懐疑心に満ちた声音で問いかけるオプティマスの返答はセンチネルにとって快いモノではなかったらしく彼は蒼い双眸を一瞬だけ見開いた後、不快そうにその目を眇めるのと同時にオプティマスの頬を叩く音が待合室に響く。