人間の姿だったときには気づかなかった、戦闘機になったときも気づけなかった、簡単なことを見通していた自分に若葉は罵声を浴びせたくなる。
　あれだけの怪我が簡単に治るわけなどないことくらい解っていたはずだ。
　それに気づけなかった要因は一つ。
　作戦に固執してしまったことだ。
　スタースクリームは自身が作戦を遂行することは難しいことくらい解っていただろう。
　自分自身の事なのだから一番よく解っていたはずなのに、作戦に同意したのはイェーガー一家を助けるために必死になっていた若葉の意思を尊重してくれた。
　そのことに気づいた瞬間若葉の顔から血の気が引いていく。
　焦燥から呼吸が荒くなり始めた若葉が体を震わせたときだ。

　『勘違いするなよ、小娘。この程度の怪我など俺様には問題ない』

　「だけどッ！！」

　『雑魚相手には良いハンデだ』

いつもと変わらぬ不遜な物言いではあるが機体から出ている黒煙と火花がソレが嘘だと伝えてくる。
　敵もスタースクリームの異変に気づいているのか、コレを好機と判断したらしく背後に回ると執拗に攻撃を繰り出してくる。
　ロックオンされる度にコックピット内に鳴り響くアラート、放たれたミサイルを迎撃するスタースクリームの動きは先ほどまでとは違う。
　だんだんと高度も下がっているのか海面に近づきつつある。
　先ほどまで背後にいた敵機がスタースクリームと並んで飛行をしてきた。
　コックピットには誰も乗っておらず、敵が金属生命体であることの証明だ。
　こちらを見つめてくる目は無いのに何かの視線に気づいた若葉は薄気味悪さから顔を背ける。

　『よぉスタースクリーム。随分と良い姿じゃないか』

ノイズ混じりの音声に若葉は驚いたように目を開く。

　『おまけにハッキングされるなんてらしくねぇなぁ！！』

ゲラゲラと嗤いながら話しかけてきているのが敵機である事に気づいた若葉は不安そうな視線をスタースクリームに向けるが、スタースクリームは相手の挑発に乗るつもりは無いらしく無視を決める。
　思ったような反応が返ってこなかったことが面白くなかったらしい敵機はチッと舌打ちをした。

　『まぁいいさ。お前、このままだと俺に殺されるって事くらいは解るよな？仲間を売ってでも自分が生きることを優先してきたお前のことだ。助かるためにはどうすりゃいいか解るだろ？』

その言葉を聞いた瞬間若葉はヒュッと息を吸い込む。
　敵が何を欲しているのかなんて答えは一つしかない。

　『メガトロンの娘を寄越せ』

　『どうするつもりだ？』

　『奴を倒す為に使うだけさ！！安心しろよ、すぐには殺さねぇって！！適当に手足の一本でも切り落としてメガトロンの元に送れば奴も大人しくなるだろ？そうなりゃディセプティコンは俺のモンだ！』

当たり前のように告げられる若葉への容赦の無い仕打ち。
　頭では解っていたことだが、実際にその危機が自分に差し迫ってくると恐怖で体の奥が冷たくなっていく。

　『解ったらさっさと娘をこっちに渡せ。あぁお前さえ良けりゃ俺の傘下に加えてやっても良いぜ』

　『断る』

きっぱりと拒絶したスタースクリームの返答が気に入らなかったらしい敵機は一瞬の沈黙の後、一気に加速して上昇する。

　『ならば死ね』

急降下しながら攻撃をしてくる敵機の攻撃からスタースクリームは逃げる。