肩から勢いよくコンクリートの上へと倒れたスタースクリームの姿を認識したのと同時に、若葉はスタースクリームへと近づく。

　「大丈夫？」

　「問題ない」

殴られた頬を赤く染め唇から血を流すスタースクリームの姿を見た若葉は何処が問題ないのだ？と問いかけたくなったが、今はそんなことを聞くよりも傷の手当てが必要だと思い、ハンカチを取り出すと口元に押し当てる。
　サイドスワイプの突然の暴挙に驚愕のあまり固まっていたケイドであったが、慌てて駆け寄ってくるとサイドスワイプの肩を掴み矢継ぎ早に何かを話しかけていた。
　落ち着け、というかのようにケイドがサイドスワイプの肩を軽く叩いた時だ。

　「……、……！！………。…………ッ！！！」　

今までは若葉にも解るように日本語を使っていたサイドスワイプが突然、英語で何かを叫んだ瞬間、ケイドの両目が大きく見開かれた。
　信じられないと言うかのように視線をさまよわせていたケイドに対し、サイドスワイプが怒りで語尾を荒げながら何かを話しかけており、時折若葉に対して殺意の宿った目線を向けてくる。
　何を言っているのかは解らないが良くない事を言っていることは明らかだった。

　「あの馬鹿ガキが……全部話しやがった」

チッと舌打ちをしたスタースクリームの言葉に若葉はヒュッと息を吸う。
　サイドスワイプはケイド達が若葉の帰国に同行させられた理由を話したのだ。
　真相を知ったケイドが何を思っているのか解らないが、きっと良くはない気持ちになっている事だけは若葉にだって解る。
　もしも同じ立場だったのならば若葉とて密かにそんな理不尽な事を押しつけられたと知ったのならば、相手に対して強い不信感も抱くし、今後は行動を共にしようとなど思えない。

　「ケイド・イェーガー。……。……………」

スタースクリームがケイドに対して説明をしている声が聞こえる。
　けれどそれが音声として若葉が認識できない。
　ただ、何かを堪えるかのようにきつく目閉じると若葉は胸元を縋るように握りしめた。
　スタースクリーム達の会話はかなり長い間続けられており、時折、ケイドの怒鳴り声が聞こえてくる。きつく目を閉じている若葉にはケイドの顔が解らないが、自分へと向けられる強い視線からきっとケイドは若葉の事を憎んでいるのだという事が理解できた。

　「（当然だよね）」

自分たちの命が犠牲にされそうになっているのだ。
　到底許せることではない。

　「（だからこそ）」

ロックダウンからイェーガー一家が何も知らずに巻き込まれただけだと知った時から、自分を意のままに扱おうとしている大人達に対して、若葉はこのままでは駄目だと思った。
　今回の件で上手く事が運べる事を知った者達が同じ事を繰り返す。
　メガトロンの敵をおびき寄せる餌として若葉を使うが、若葉の身に危険が及びそうになれば誰かを身代わりとなる。
　そんなことなどごめんだ。
　胸元の衣服を強く握る。
　それは恐怖からではなく、これから行う事への確固たる決意を誓うかのように。

　「スタースクリーム」

目を開きゆっくりと顔を上げながら名を呼ぶとスタースクリームが視線を向けてくる。
　自分を見上げてくる若葉が覚悟を決めたかのような顔をしていることに気づいたスタースクリームは無言のままジッと若葉の顔を見つめていたが、呆れたように肩を竦めると深々と息を吐き出す。

　「小娘。お前は本当に馬鹿だな」

言葉とは対照的に若葉へと告げた声は柔らかなものだった。
　そのことに若葉は上手く言葉を返せず視線を彷徨わせた後、困ったように眦を下げながら微笑む。
　ゆっくりとこの場に居る者達の顔を見渡す。
　誰もが好意的な視線を向けてはこない。警戒と侮蔑の混ざったような顔をしている。
　これから行うことに対し、皆の気持ちが一つでなければ駄目だと思いながら若葉は意を決したかのような顔をすると声を出す。