自分の知らなかった真実が次々と明らかになっていく事に若葉は考えが追いつかず、ただ、呆然と前を見つめることしかできない。
　車の窓越しに見える景色が見慣れないものへとなり始めており、空港が近いことを理解した若葉は時間が無いことに気づく。
　このままではイェーガー一家が自分の身代わりにされてしまう、そう思った瞬間、ある考えが若葉の中に浮かぶ。

　「ケイドさん達は自分たちが利用されていることを知っているの？」

知っていて来たのならばそれ相応の対策をしているのだろう。
　けれど彼らの様子は明らかに違っていた。
　本当にただの旅行に行くかのように若葉には見えたのだ。

　『イェーガー一家には何一つ情報は伝えられてはいない。雇い主が最もらしい理由をつけて今回の同行を了承させた』

返された言葉に若葉は彼らは完全に利用されたのだと理解すると、鋭い視線でロックダウンを見つめ文句の一つでも言ってやろうかと思ったのだが、彼に何を言ったとしても無意味であることだと自分に言い聞かせると代わりにシートベルトを両手で握りしめた。
　そんな若葉の反応が少々意外だったロックダウンは問う。

　『なんだ？八つ当たりの一つでもしないのか？』

　「ここで貴方にそんなことをしても意味は無いもの。時間は有意義に使うべきでしょう？」

空港に着くまでの間になんとかイェーガー一家を助けるための方法を見つけ出さなければならないのだ。
　時間は限られており、一分一秒たりとも無駄にする事はできない。

　「（もっと早くにイェーガーさん達の事を教えてくれれば）」

そう考えた瞬間、空港に着くまでの時間を計算した上でロックダウンは計算した上で真実を伝えてきたのだと若葉は理解する。
　真相を知った若葉に時間を与えれば対応策を見つける可能性がある為、けれど全てを伏せたまま行動をした場合も些か問題が出てくる、それ故にギリギリ間に合わないだろうという時間を与えた。
　若葉は自分の持てる力で最大限努力をした、けれど結果的にそれは間に合わなかった。だから若葉は悪くはない。悪いのは攻撃をしてきた敵なのだ、と事が終わった後に慰めれば良い。

　「（あの二人がやりそうなことだ）」

フォールンとメアリングの顔が浮かぶ。
　他所の傷は心に残るだろうが、アフターケアをしっかりとすることで若葉ならば乗り越えられると大人達は勝手に判断していた。
　全てが用意された舞台の上で操り人形のように踊らされる若葉の気持ちなど無視して。
　そのことに気づいた若葉の中に生まれたのは強い怒りだ。

　「（ふざけんな）」

誰がお前達の思い通りに踊ってやるものか。
　猛る気持ちを落ち着かせるかのようにゆっくりと深呼吸をした若葉はカーナビへと向かい問いかける。

　「空港に着いたら私はどうしたら良いの？」

　『……飛行機を２機用意してある。片方にお嬢さんが乗り、もう片方にイェーガー一家が乗り、同時に離陸をして別々のルートを使ってアメリカへと向かう。途中間違いなく敵からの攻撃があるだろうがソレは俺とスタースクリームで対応する。無論、敵もそれが罠だと解っているのだろうがそれでも誘いに乗らざるを得ない』

　「敵にとってはイェーガーさん達も報復の対象だから？」

　『そうなるな』

先ほどまでは不服そうな顔をしていた若葉が素直になったことに対し、一瞬だけ訝しむかのように沈黙をしたロックダウンであったが、若葉がイェーガー一家を助けられないが故に大人しく従う事を選んだのだろうと判断し、今後の作戦を伝える。

　「搭乗するところを見られれば私がどちらに乗っているのかバレるよ？」

　『安心しろ。対策済みだ……そろそろ空港だ。一度、ケイド・イェーガーと合流をする』

タイミング良く空港に到着するのと同時にロックダウンは道路を無視するとそのまま滑走路へと向かって移動した。