31章 天秤は傾く
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母の避難が完了していない。
それを聞いた瞬間、若葉が思ったのはこのまま飛行機に乗って逃げることなどできないということだ。
けれどこちらの戦力はロックダウン、スタースクリームの二体なのだが、スタースクリームの損傷が激しいため、彼を戦力と数えるのは難しいだろうなと若葉は判断していた。
「(だからと言ってここでカーチェイスをすることもできない)」
アメリカならば人気の無い道などに避難して敵を引きつけて迎撃できたのだろうが、日本ではそれをするのには少々、否、かなり難しい。
金属生命体はアメリカを拠点として活動しており、その関係者が日本でカーチェイスを行えば国際問題に発展する可能性だってあるのだ。
「(それをあの人は解っているはず)」
脳裏に浮かんだ母の友人の顔。
仕事のできる女性という印象の彼女に少しだけ見え隠れした母の面影。
メアリングほどの女傑が後先考えずに若葉を囮として使うわけもなく、ましてやその舞台が他国ともなれば決して選ばないはずだ。
彼女は政治家。
最小限の犠牲で最大限の利益を得る事の長けており、そして必要以上のリスクを負うことは決してしない。
自らに火の粉が飛んでくるような場所で火事を見ることはせず、安全圏から判断を下す。
そう考えた瞬間、若葉はある一家の顔が思い浮かぶ。
「……まさか、嘘でしょ?」
最低最悪の答えが若葉の中で出る。
それを彼女が選んだことが信じられず、けれど心のどこかでは納得もしている自分に対し嫌悪感を抱いた若葉はきつく目を閉じた。
『どうやら答えにたどり着いたようだな。言っただろう?俺の雇い主は善人の皮を被った政治家だと』
「聞きたくない」
『自らの命は決して手放さず、勝算の薄い舞台には、危険な盤上には足を踏み入れない。けれども他人の命など天秤にいとも簡単に乗せられる。片方の天秤には若葉という人間、もう片方にはイェーガー一家。……どちらに天秤が傾くなんてのはお嬢さんには解っているはずだ』
「聞きたくないって言っているでしょうッ!!!」
声を荒げた若葉は思い切りドアを殴りつけた。
嫌な音が車内に響く。
ジンジンという痛みが拳から伝わってくるが若葉はそれを堪えながら、目の前のカーナビを睨めつける。
『お嬢さんと面識のない何故イェーガー一家がお嬢さんと一緒に来ることになったか疑問に思わなかったのか?同い年の娘がいるから?俺の知る限り、お嬢さんは初対面で円滑な交友関係を築けるようなタイプではないだろう?……ましてや日本はお嬢さんの祖国だ。それなのに初対面の家族を同行させるなどおかしな話だろう』
若葉の帰国に対しメアリングが善意でイェーガー一家を同行させたのではない。
若葉が窮地に陥った場合、彼らを若葉の代わりの囮として使う為だった。
『あの老獪な老人がメガトロンの娘になる者を犠牲にするような作戦を最初から考えるはずがない。……利己的な人間ほどメガトロンとの関係が悪化することだけは阻止したいのだろう。円滑な関係を今後も続けられるのならば民間人3名くらいの命など安いものだ』
政府上層部も全て承知の上でイェーガー一家を同行させた、ロックダウンの言葉からそう判断した若葉は首を横に振りそれを否定する。
「私は誰かを犠牲にしてまで生きるような人間じゃない」
『これはおかしなことを口にする』
微かな嘲笑混じりの言葉に若葉は困惑した眼差しをカーナビへと向けると、カーナビに表示されていた地図が消え、代わりにロックダウンの顔が浮かび上がる。
『メガトロンの娘になった以上、お嬢さんは常に誰かを犠牲にして生き残ることをになった。それこそ他者を犠牲にし、誰かの悲しみの上で今後は生きていくことになる。それがディセプティコンを率いる者の……欺瞞の民の娘になった者の宿命だ』
当たり前のことのようにロックダウンが告げた言葉を聞いた瞬間、若葉は自分の中で何かがカタリと傾いた音を聞いた。
それは天秤の秤が片方へと傾いた音ととてもよく似ていた。
それを聞いた瞬間、若葉が思ったのはこのまま飛行機に乗って逃げることなどできないということだ。
けれどこちらの戦力はロックダウン、スタースクリームの二体なのだが、スタースクリームの損傷が激しいため、彼を戦力と数えるのは難しいだろうなと若葉は判断していた。
「(だからと言ってここでカーチェイスをすることもできない)」
アメリカならば人気の無い道などに避難して敵を引きつけて迎撃できたのだろうが、日本ではそれをするのには少々、否、かなり難しい。
金属生命体はアメリカを拠点として活動しており、その関係者が日本でカーチェイスを行えば国際問題に発展する可能性だってあるのだ。
「(それをあの人は解っているはず)」
脳裏に浮かんだ母の友人の顔。
仕事のできる女性という印象の彼女に少しだけ見え隠れした母の面影。
メアリングほどの女傑が後先考えずに若葉を囮として使うわけもなく、ましてやその舞台が他国ともなれば決して選ばないはずだ。
彼女は政治家。
最小限の犠牲で最大限の利益を得る事の長けており、そして必要以上のリスクを負うことは決してしない。
自らに火の粉が飛んでくるような場所で火事を見ることはせず、安全圏から判断を下す。
そう考えた瞬間、若葉はある一家の顔が思い浮かぶ。
「……まさか、嘘でしょ?」
最低最悪の答えが若葉の中で出る。
それを彼女が選んだことが信じられず、けれど心のどこかでは納得もしている自分に対し嫌悪感を抱いた若葉はきつく目を閉じた。
『どうやら答えにたどり着いたようだな。言っただろう?俺の雇い主は善人の皮を被った政治家だと』
「聞きたくない」
『自らの命は決して手放さず、勝算の薄い舞台には、危険な盤上には足を踏み入れない。けれども他人の命など天秤にいとも簡単に乗せられる。片方の天秤には若葉という人間、もう片方にはイェーガー一家。……どちらに天秤が傾くなんてのはお嬢さんには解っているはずだ』
「聞きたくないって言っているでしょうッ!!!」
声を荒げた若葉は思い切りドアを殴りつけた。
嫌な音が車内に響く。
ジンジンという痛みが拳から伝わってくるが若葉はそれを堪えながら、目の前のカーナビを睨めつける。
『お嬢さんと面識のない何故イェーガー一家がお嬢さんと一緒に来ることになったか疑問に思わなかったのか?同い年の娘がいるから?俺の知る限り、お嬢さんは初対面で円滑な交友関係を築けるようなタイプではないだろう?……ましてや日本はお嬢さんの祖国だ。それなのに初対面の家族を同行させるなどおかしな話だろう』
若葉の帰国に対しメアリングが善意でイェーガー一家を同行させたのではない。
若葉が窮地に陥った場合、彼らを若葉の代わりの囮として使う為だった。
『あの老獪な老人がメガトロンの娘になる者を犠牲にするような作戦を最初から考えるはずがない。……利己的な人間ほどメガトロンとの関係が悪化することだけは阻止したいのだろう。円滑な関係を今後も続けられるのならば民間人3名くらいの命など安いものだ』
政府上層部も全て承知の上でイェーガー一家を同行させた、ロックダウンの言葉からそう判断した若葉は首を横に振りそれを否定する。
「私は誰かを犠牲にしてまで生きるような人間じゃない」
『これはおかしなことを口にする』
微かな嘲笑混じりの言葉に若葉は困惑した眼差しをカーナビへと向けると、カーナビに表示されていた地図が消え、代わりにロックダウンの顔が浮かび上がる。
『メガトロンの娘になった以上、お嬢さんは常に誰かを犠牲にして生き残ることをになった。それこそ他者を犠牲にし、誰かの悲しみの上で今後は生きていくことになる。それがディセプティコンを率いる者の……欺瞞の民の娘になった者の宿命だ』
当たり前のことのようにロックダウンが告げた言葉を聞いた瞬間、若葉は自分の中で何かがカタリと傾いた音を聞いた。
それは天秤の秤が片方へと傾いた音ととてもよく似ていた。
