31章 天秤は傾く
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『今回のような襲撃が行われることは彼女たちにとっては想定内の出来事だった』
あらかじめ予想され、そして対処のされていた事態だったとロックダウンの口から告げられた言葉に対し、若葉は理解できないと言うかのように眉を寄せる。
この襲撃が解っていたのならば何故対処をしなかった?
そう問うかのような顔をした若葉に対し、ロックダウンは淡々とした口調で告げる。
『元々、ディセプティコンに対する悪意はあった。博士もソレを承知していたし、ソレを承知の上でメガトロンを受け入れた。その結果がどうなるのかも二人は解っていたし、俺の雇い主も起こりうるだろう事態も想定していた』
何もかも解った上で動いていたのにもかかわらず、ここまで後手に回らざるを得なかったことが解せなかった若葉であったがあることに気づく。
「貴方たちにとって想定外だったのは母の妊娠ですね?」
『誰もが予想し得なかったことだ。……メガトロンもお前の母もな。故に俺の雇い主も思うように動けなくなった。本来であれば博士が囮となりメガトロンの敵を自身に引きつけ、その間にお嬢さんを秘密裡に日本からアメリカにあるNEST基地への移動を行う予定だった』
まさかの作戦に若葉は一瞬、何を言われたのか理解できずに沈黙する。
頭の中で色々なことを思い出しながら困惑した声で問う。
「どうして私を?」
若葉を守るために母自らが危険な役目を率い受けたのか解らない事に対する疑問。
メガトロンは母を愛していて、だからこそ母を囮に使うような事は絶対に認めないはずだ。ましてやそれが血の繋がりが無い若葉を守るためなど、あり得ないことだと思いながら若葉の考えを読んだかのようにロックダウンは告げる。
『お嬢さんの疑問は尤もだ』
「だったらどうして!!」
悲鳴のような声で、問い詰めるかのような強い口調で、若葉が声を出す。
『お前達人間にとって親とは子を守る存在なのだろう?』
至極当たり前のことのようにロックダウンが口にした言葉。
その言葉を聞いた瞬間、若葉は母から愛されていたのだと理解した。
母は今も昔もずっと変わらぬ愛を惜しみなく与え続けてくれていたのに、それを受け入れること拒否したのは他ならぬ自分だ。
馬鹿みたいに頑なになり、我が儘な子供の主張を続けたのは、他ならぬ自分であること、それが母を苦しめた事を今になって若葉は理解する。
「私、馬鹿だ」
ボロボロと両目から涙を溢れさせながら若葉は呟く。
縋るように目の前に居るスタースクリームの衣服を掴みながら声を殺して泣いていたときだ。
冷たい指先が若葉の頬を撫でる。
驚いたように目を見開いた若葉の目が見つけたのはスタースクリームの赤い瞳だ。
「泣くな」
頬を濡らす涙を拭うかのようにスタースクリームは若葉の頬を指で撫でる。
その仕草が酷く優しくて、若葉は顔をくしゃくしゃにして何度も頷く。必死に涙を止めようとしても若葉の意に反して両目からは止まることを知らないかのように次々と涙が溢れては若葉の頬とスタースクリームの指を濡らす。
「お前の中にあるその感情を伝えろ。……博士はお前を否定しない。そして閣下もお前の言葉を聞いてくれる。あの方はそういう御方だ」
「うん」
スタースクリームの言葉を聞いてから少しずつ若葉の涙が止まり始める。
泣き腫れて痛々しい目元を労るかのようにそっとスタースクリームの指先が撫でていく。
数度そうした後、ゆっくりと指差が離れるとスタースクリームの目も静かに閉じられる。
『360秒後に空港に着く。すでに発進準備も終わっている。後はお嬢さんが乗るだけだ』
ロックダウンからの言葉を聞いた若葉はスタースクリームの服から手を離すとゆっくりと深呼吸をすると、濡れた目元を手の甲で乱暴に拭った。
