スタースクリームは自分に対して縋るように触れてきた若葉の手が酷く震えていて冷たい事に気づくと、若葉へと視線を向けるのと同時に密かにスキャンする。
　心拍が早くなり、呼吸も浅く、筋肉にも収縮がある事から極度の緊張状態に顔には出さないが少しばかりの焦燥感を抱く。

　「（動けんかもな）」

緊張と恐怖は思考を停止させ、体の動きを遅らせる。
　最悪の場合は若葉を抱えて逃げることも想定しておく必要があるかもしれない、そう判断したスタースクリームは様々なプランを自身のスパークの中で練り上げていた時だ。
　上着に入れていた携帯が震えたため、迎えが到着したのかと思いながら取り出すと表示されている名前を見て目を眇めながら通話ボタンを押すと自身の耳元へとあてる。

　「……ロックダウン。何の用だ？」

　『雇い主からお前達を救出しろとの命令だ』

　「貴様の手助けなど不要だ」

そのまま通話を終えようとしたとき、外から聞こえてきたエンジン音にスタースクリームは驚いたように一瞬だけ目を見開いた。

　『お前達の手配した迎えは事故によりここに来ることは不可能となったぞ』

　「事故だと？」

　『そうだ。表向きはな』

　「ふざけるなよ。俺が手配した迎えは普通のものではない」

本来ならば武装をしたＮＥＳＴの部隊を秘密裡に日本に入国させたかった。しかし、今の若葉はメガトロンとは何の関係もない一般人でしないため上層部が承認しなかった為、代わりに金さえ払えばそれなりに使えるだろう傭兵部隊をフォールンとメアリングが密かに雇い、若葉が日本に居る間は護衛する手筈になっていた。

　『あぁそうだ。そんな連中が全員事故で死んだ。……俺の言いたいことは解るだろう？』

　「だからといって何故貴様が来る？クソボッツの小僧はどうした？」

　『あの坊やは別件で動いているよ。さて、あまり悠長に考えているおしゃべりしている余裕はないぞ？あと２４０秒後に奴らがここに来る』

　「ソレを早く言え！！」

想定していたよりも敵が早く動いており状況が不利になっている事にスタースクリームは気づくと不快そうに舌打ちをすると苛立ちを隠さぬまま若葉を連れて歩き出す。
　突然のことに混乱しながらもスタースクリームに必死についてくる若葉を気にかけながら、スタースクリームは玄関のドアを開けると目の前にある車に向かい駆け足で近づく。
　音もなく開いたドアの中は無人であったことにスタースクリームはちょうど良いと思うと、若葉を抱き上げるのと同時に車に向かって飛び込む。

　「出せ！！」

鋭い声で命じるのと同時にタイヤが高速回転する音が響く。
　凄まじいスピードで走り出した車に目を白くをさせている若葉とは対照的にスタースクリームは携帯を取り出すと冷静に状況を確認する。
　
　「小娘。シートに座ってシトーベルトを着けろ」

　「解った」

法定速度など知ったことではない、と言うかのようなスピードで走行する車に乗ってしまった事に恐怖を抱きながら若葉は大人しくシートベルトを装着する。
　運転席に居るスタースクリームは携帯で誰かと通話をしながら、タブレットに凄まじい早さで何かを入力している。

　「クソッ！！サウンドウェーブは何をしている！？奴が居て何故こんなに後手に回らねばならんのだ！！！」

苛立ったようにハンドルを殴りつけたスタースクリームの激高した表情に若葉はヒュッと息を吸い込むと縋るようにシートベルトを握る。
　これほどまでに感情を露わにするスタースクリームを見るのは初めてで、だからこそ今の自分たちの状況がとても悪いのだということに若葉は言葉を失い、何もできない自分の無力さを嘆くかのようにそっと目を伏せた。