可能な限り思い出の品や衣服などは減らし、なんとか段ボール３つに納めることができた。少々段ボールの容量を超えてしまった為か膨張して少々歪んだ形になってしまった段ボールをスタースクリームが何とも言えない顔をして見つめている。

　「まぁ……３つは３つだな」

渋々、本当に辛うじて許してやる、そう言うかのような顔をしてスタースクリームの口から出てきた言葉に若葉は満面の笑みを浮かべながらガッツポーズをする。
　集中して作業をしていたためか少し疲れた体でリビングへと向かった若葉はソファに座ると慣れ親しんだ感覚が体を包んだ瞬間、家に帰ってきたのだという事を改めて認識した。
　住み慣れた我が家を無言のまま見渡しながら若葉は思う。

　「（私にはやっぱりこういう生き方が合っているよね）」

立派な家も高級な家具も平々凡々な自分には似合わないことくらい若葉は解っている。母のように研究者になれるほどの頭が良くもなく、かと言って何か誇れるような事があるのか？と問われれば答えは否だ。
　そんな自分が大切にされているのは、尊重されているのはメガトロンの義理の娘になるから。分不相応な待遇を受けるのだからこそ自らの立ち位置を理解して動かなければならない、そう思っていた若葉はサイドボードの上に置かれている写真立てが消えていることに気づく。

　「写真ならば回収した」

疑問に対する答えはすぐに出た。
　スタースクリームの言葉に若葉は室内の様子を改めて観察するといくつか消えているモノがあった事に気づき、スタースクリームに視線を向けると疲れたような顔をしたスタースクリームが口を開く。

　「博士からの依頼だ。日本に残してきた必要な物を回収してきて欲しいとな」

その言葉に若葉は少しだけ胸の奥が熱くなった。
　サイドボードの上にあった写真立ては若葉の節々の成長を記念して母が撮ったものだ。古くなりいくつか色あせてしまった写真もあるが母はソレを時折目を細めて見つめている姿を若葉は何度も見たことがある。

　「他にも何か回収するの？」

　「貴重な蔵書とやらがいくつかあるな。だがまぁ大半はお前に関する写真やら記念品ばかりだ。全く……お前達親子は貴重な物を形を手元に置こうとするのか理解できんな」

深々とため息を吐きながらスタースクリームは若葉の隣に座る。
　金属生命体である彼らにとって記憶やそれに関することは全て頭の中にデータとして残され、ある意味では永久に失われないということは若葉とて理解している。
　きっとスタースクリームと若葉の互いの思考が相手に理解されることはない。
　それが金属生命体と人間という種族の違いだからだ。

　「（ソレを考えると母さんは凄いなぁ）」

互いの種族の垣根を越えたのだから。
　ましてや金属生命体を愛しその子供を宿した。
　そうなるまでの間にきっと何度も葛藤もしただろうが最終的には全てを乗り越えた。
　その強さを若葉はきっと得られないことくらい自分が一番よく解っている。

　「（もしも母さんが私の立場ならば私がしたような選択はしない。母さんならきっと自分で道を切り開く）」

若葉が自らを切り捨てるのとは対照的に母は自らを守り抜く選択をした。

　「（結局私が弱いからこうなった）」

そんな事を考えていたとき、頭の上にポンッと何かが乗せられたことに若葉は気づく。
　視線を頭上へと向けると見覚えのある入れ墨が見えた。

　「……何故私の頭の上に貴方の手があるのでしょう？」

若葉の頭上にあるのはスタースクリームの手だった。