冷静になって考えてみれば若葉に関することでメガトロンが声を上げないことが可笑しいのだ。そして君主であるメガトロンに絶対的な忠誠を誓っている２体が必要以上のアクションを起こさなかった。
　要するに裏で手を回されていたのだ。
　若葉を守るために誰が最善なのか、何が最善なのか、熟考された上で今回の同行者にスタースクリームが選ばれた。

　「（やってくれたな）」

脳裏に浮かぶ者達の顔を睨み付けながらもスタースクリームはそういったことを読み切れなかった自分の浅慮を嘆きながら若葉へと視線を向ける。
　その顔を見ていると育てている雛たちに向けるような、一種の気の迷いだと言ってしまえるかのような、感情が浮かんできてしまう。
　恐らくきっとそういったことも含めてスタースクリームが選ばれた。

　「（馬鹿正直に奴らの策に乗ってやる必要はないが……）」

若葉へと視線を向けたスタースクリームは考える。
　メガトロンは当然だが参謀達が気に入っている若葉をこの旅で懐柔し、基地へと戻った時に若葉が誰よりもスタースクリームを慕っている姿を見た時の奴らの姿を想像すると、どうしようもないほどの優越感に浸ることができた。

　「（奴らのことだ。どうせ俺がそこそこ面倒を見て、小娘の自覚をうまく促すだろうと思っているのだろう）」

右の口角をつり上げたスタースクリームは意地悪く笑う。
　他人の策略が、本心が見えているというのに誰がその策に黙ってのってやるものか。
　スタースクリームはいくつかのプランを作成しそれに伴う若葉の思考と心理パターンを作り出すと、どれを選んでも自分を慕うような結果を作り出すと満足そうに目を細めて笑った後、若葉を懐柔するために口を開こうとしたときだ。

　『母親ってのは次の子供が生まれたら、今いる子供のことを捨てるものなのか？』

心底不思議だというかのようなサイドスワイプの発言が車内に響く。
　スタースクリームも若葉は一瞬、何を言われたのか理解できず絶句している中、理解しかねると言うかのような口調でサイドスワイプは言葉を続ける。

　『俺は人間じゃねぇからお前達の生態系はよく解らねぇ……実際に親が子供を虐待するって報告も世界中で報告されているからな』

そう告げた直後、フロントガラスにいくつもの新聞記事が上げられていく。海外のものだったり、若葉もよく知っている有名な事件だったりとしたものだ。
　無言のまま新聞記事を見つめる若葉の目が悲痛そうにゆがめられたことに気づいたサイドスワイプはソレらを消す。

　『俺知っている博士はラチェットと同じくらい怖ぇ存在だ……でも、時々あの人がお前の写真を同僚達に見せて楽しそうに笑っている姿を見たことがある』

それは若葉の知らない母の一面だった。
　信じられない、そう言うかのように大きく目を見開いた若葉に対してサイドスワイプは告げる。

　『お前は博士が大切か？』

　「大切だよ。この世界で一番大切」

迷うことなくそう告げた若葉の言葉にサイドスワイプは少しだけ安心したと言うかのようにエンジン音を一度だけ強く吹かす。

　『お前の大切な人は……自分が幸せになる為に誰かを犠牲にするのか？』

犠牲、その言葉を聞いた瞬間に若葉の脳裏に次々と母との思い出が蘇ってくる。
　若葉が悪いときとて母は一歩引いてその言い分を聞いた後、それが間違っていることをやんわりと教えてくれた。
　若葉が困っていたときには話を聞いて若葉が答えを出すまで黙って見守っていてくれた。
　若葉が新しい環境に挑戦することを喜び、そして上手くいっていることを知ると自分のことのように喜んでくれた。

　「絶対にしない」

母との愛おしくて優しい思い出が次々とあふれ出してきて、ソレら全てが若葉が愛されていたのだと教えてくれた。
　胸の奥底からこみ上げてくる熱い”何か”の正体は若葉には今は解らない。
　けれどソレが決して悪いモノではないことくらい解っていた。