飛行機に乗った時、そしていくつかの問題があった為、若葉はこの空の旅を無事に終わらせて日本に帰国できるのだろうか？と内心ヒヤヒヤしていた。
　けれどその考えは杞憂で終わる。
　ケイドとの話し合いを終えた若葉が本を取り出してそれを読み始めるとスタースクリームもタブレットを手に持ち、画面を凝視したまま席から立つことはしなかった。
　気難しそうな顔をしたままタブレットを睨みつけていたスタースクリームだったが、チッと舌打ちをすると渋々といった顔をしてタッチペンを取り出すと画面にサインをする。
　思い出せば飛行機に乗ったときからスタースクリームが暇さえあればタブレットを見ていた。
　若葉視線に気づいたらしいスタースクリームがタブレットへと向けていた顔をパッと上げる。

　「なんだ？」

　「仕事ですか？」

　「あぁそうだ。ディセプティコンの中で俺は閣下に次ぐ立場だからな。今は閣下が色々と込み入った事情で処理できない案件やらが俺に全て送られてきている・・・全くコレくらいの案件ならば出来そうなヤツが何人か居るだろうに」

メガトロンの事情、それは恐らく母の件だろうなぁと若葉は感じ取っていた。あえてそれを口にしないのはスタースクリームなりの不器用な優しさであることを解っている。

　「私で協力できそうなことってありますか？」

　「・・・大人しく俺の側に居ろ」

ほんの一瞬赤い目がロックダウンの方へと向けられた。
　その視線の鋭さから若葉はスタースクリームがロックダウンに対して並々ならぬ警戒心を持っていることを感じ取る。
　オプティマスの部下であるサイドスワイプに対するものとはまるで異なる感情。
　何故そのような感情を抱いているのかは解らないが、少なくともロックダウンという人間に関して若葉は何一つ解っていないため、ここは大人しく従っていたほうがよいだろうなと判断すると頷いた。

　「では大人しく本でも読んでいます」

　「あぁ。そうしろ」

長いことタブレットと睨めっこをしていたためか、少しばかり凝ってしまったらしい目元を指先でほぐしているスタースクリームに気づいた若葉はそっと声をかける。

　「コーヒーでも飲んで休憩でもしませんか？」

何事も根を詰めすぎるのはよくはない。
　そう言うかのように若葉が提案をすると、スタースクリームは信じられないというかのような顔を若葉へと向ける。

　「今の誘いは俺にか？」

　「そうだけど？」

　「ケイド・イェーガーでも、クソボッツでも、ロックダウンでもなく、今の誘いは俺にしたのか？」

　「えぇっと・・・他に誰がいるの？」

念入りに確認しなければならないほど自分は変な提案をしただろうか？そう思いながら若葉が小首をかしげるとスタースクリームはフンッと鼻を鳴らすとそっぽを向く。
　もしかして自分は余計なことをしてしまったのだろうか？そう思った若葉が謝罪の言葉を告げようとした時だ。

　「カフェラテに砂糖一杯」

小さな声であったが若葉の耳に届いたリクエスト。
　少しばかり意外な注文に若葉は驚き、スタースクリームを見つめていると髪から微かに見える耳が不自然なくらいに真っ赤になっていることに気づく。
　それが意味することを若葉は悟るのと同時に、スタースクリームが急に不機嫌そうな態度をとったのか理解をした。
　けれどそれを指摘してしまえばきっとこのプライド高い男のことを傷つけてしまうと解っていた為、若葉はスタースクリームのために少しばかり時間を作ることにする。

　「ちょっと気分を変えてみたいので少しばかりメニューを見て考えたいので、数分ほど時間を頂いていいですか？」

　「好きにしろ」

いつにも増して素っ気ない返答であったが、少しもそれに対して気分を害することはなかった。