整った横顔をジッと見つめながら若葉は今言われた言葉の意味を考える。
　自信満々で、自分の言う事に間違いなどないと言うかのようなスタースクリームの声を聞いていると若葉は羨ましいと思ってしまう。
　スタースクリームはさも当然のように口にしている発言、それは恐らく自分にはそうすることが出来る、それを容易に行えるという口調から彼には間違い無く自らの理想を実現するだけの実力がある。
　ソレこそ自らに相反するモノを退けられるほどの実力があるだろうな、というのは自らがメガトロンに次ぐ実力者だと告げている事から明らかだ。
　他者の声など、意見など、退けられるくらいの強い意志。

　「（私には無いものだ）」

そんな風に強ければ違ったのだろうか？
そんな風に強ければ自分は今も尚、母の側で笑っていられたのだろうか？
　自分の為に他人を傷つけてでも退けられるような強さがあれば、自分の事だけを考えて、その感情と思考に従ってしまえば楽になれるのだと心のどこかで何かか訴えてくる。
　込み上げてくる欲求に何も考えず行動できたのならば、そうしてしまえばきっと苦しむことはない事も解っているのだが、衝動に従った先に何が待っているのかなんて事くらい若葉はとうの昔から知っているのだ。



　「本当に申し訳ありませんでした」



深々と頭を下げる母の姿が浮かぶ。
　何かをする事は責任が生じる。
　何か問題が起きた時、ソレの対処を出来なければ誰かが自分の代わりにその対処をする。
　若葉にとっていつだって代わりに対処をしてくれたのは母だ。
　その姿があるから、その姿を知っているから、若葉は衝動の赴くままに行動する事が出来ない。心が暴走しようとすると頭が無意識の内にブレーキを掛ける。

　「（あぁ。解っているから）」

二度とそんな間違いなんてしないし、二度と母にそんな事はさせない。
　ゆっくりと深呼吸をした若葉はスタースクリームへと向けていた視線を逸らす。
　分厚い透明な硝子越しに見える白と青の世界へと若葉は視線を向ければ荒れていた気持ちが少しずつ落ち着きを取り戻し始めた。

　「スタースクリーム」

　「なんだ？」

　「・・・きっと貴方の言う事が正しいんだって事くらい解ってる。だけど、だけどね」

昔、ある人が言っていた。
　「誰かの幸せとは誰かの不幸せの上で成り立っている」その時は特に深くは考えられなかったが、何となくその言葉がずっと心の片隅にあった。
　今になってその言葉の意味を若葉は理解する。

　「私はやっぱり私の大切な人達が幸せでいて欲しいなぁ」

その中に自分が入る事が出来なくても。
　彼等のために自分の幸せが消えてしまっても、それでも良いと思えた。
　微笑みながら若葉が告げた言葉。
　ソレを否定することがスタースクリームには出来なかった。

　「・・・お前は馬鹿だな」

　「そうですね」

　「救いようのない、馬鹿だ」

突き放すかのように告げるスタースクリームの声に気づいた若葉は窓に微かに映るスタースクリームの姿を見つめれば、そこには苛立ちと微かな悲しみを滲ませている横顔が見えた。

　「貴方はなんだかんだ言って優しい人ですね」

嫌いだと口にしておきながらも知り合った人を切捨てる事が出来ない人。
　自分の周りにはそんな人達が沢山居て、だからこそ、そんな人達が皆笑っていて欲しいのだと思いながら若葉は微笑む。
　胸の奥がジクジクと痛むことに気づかぬふりをして。
　いつか、いつかの未来で、その痛みが消えることを願って。
　只今は笑うことしか出来なかった。