スタースクリームの言葉を聞いた若葉は絶句したまま彼の顔を凝視することしか出来ずにいた。
　今言われた言葉がどのような意図を持って言われた言葉なのか若葉には解らないが、唯一理解が出来たのはスタースクリームが言ったことは恐らく悪意があってのことではないということだけだ。
　
　「（だけどその分）」

目を背けたい現実と向き合う必要がある気がした。
　それはとても恐ろしいのだが、それと同じくらい、少しだけ気持ちが楽になったような気がした。
　言葉に出来ないような漠然とした感情の塊。
　母の再婚を聞いてからずっとずっとあるソレは自分の心の奥底でグルグルと渦を巻き続けているモノが少しだけ薄れたような気がした。
　答えはずっと自分の中にある。
　それは一体どういう意味だろうか？そう考えば考えようとすると、足下から這い上がってくる見えない何かが自分をゆっくりと絞め殺してくるかのような息苦しさを感じ取ってしまう。

　「もしも、もしも本当に答えが私の中にあるのだとしたら・・・」

心の中に浮かぶのははっきりとしたものではなくて、まるで重しのようなソレを押さえつけるかのように若葉は心臓を押さえつけるかのようにそっと胸元に手を置く。
　自分の中にある答えの正体を若葉は何となくだが解っていた。
　それが決して良いモノではないことくらい解っていて、だからこそ言う事ができなかった。

　「答えが良い答えでなければどうしたらよいのでしょう？」

若葉の問いかけにスタースクリームの目が不機嫌そうに眇められた。
　ソレに気づいたのと同時に若葉は慌てて視線を逸らす。
　誰かを傷つけるものでしかなくて、大切な人を悲しませるものでしかなくて、優しい人達を苦しませるものでしかないのならば、それこそいっその事、口にしなければ良かったのだと、ずっとずっと自分の身の内に潜ませておけば良かったものだったのならば？と思いながら若葉はスタースクリームに問う。
　スタースクリームはメガトロンとは違う意味で優しい。
　メガトロンは若葉を思うが故に若葉にとって都合の悪い事を覆い隠したが、スタースクリームはそれが当人のためになるのならば残酷とも言える選択を突きつけてくる。

　「（だからこの人を私の護衛として命じた）」

脳裏に浮かんだのは好々爺とした老人。
　優しげな笑みを浮かべながら手を差し伸べてくるのだが、差しのばされた手は救いを与えるモノだけではない。
　若葉の立ち位置を自覚させるかのようなもので、時に逃れられぬ事もあるのだという事を教えるものだ。
　きっと彼等の全員が解っている。
　若葉が言葉の裏に含まれている意図を読み取ることを。
　それを前提として彼等は動いているのだ。

　「良い答えとは何だ？」

　「・・・皆が幸せだと思える事です」

　「それは気持ちが悪いな」

ハッと吐き捨てるかのように笑みを浮かべたスタースクリームは、逸らされたままの目線を合わせるかのように若葉の頬を両手出て包み込むかのように触れる。
　視線を強制的に上げられた若葉が戸惑うかのようにスタースクリームの双眸を見つめると、視線が合ったことで少しばかり機嫌が良くなったらしく目元が和らぐ。

　「お前の幸せはお前だけの幸せだ。誰かの幸せの延長線上にあるわけでもない・・・・。お前の大切な皆とやらは、お前の幸せを踏みにじり、お前を犠牲にしてまでも幸せになりたい奴らなのか？」

　「違います」

それだけは絶対に無いと思いながら若葉が拒絶をするとスタースクリームの手が離れていく。

　「良いか小娘、良く聞けよ？俺は同じ事を何度も言うのは嫌いだ」

言い終えるのと同時にスタースクリームの指先が若葉の心臓部分を指さすかのように向けられる。
　これ以上のことは言うつもりはない、そう告げるかのようにスタースクリームは視線を逸らすとタブレットを手に取り仕事の再開してしまった。