絶対に謝る素振りを見せなかったスタースクリームに対し、苦笑を浮かべたケイドはヒラリと手を振ると自分の席へと向かって去って行く。
　娘と共に座ろうとしたケイドだったが、すでに娘の隣には彼氏が座っており２人が決して離れないと言うかのような雰囲気を出していることに気づくと、顔をしかめながら空いているシートに座る。
　その姿を見ていた若葉の耳にシートベルトを着床するようにというアナウンスが届けられた為、座り直すとシートベルトを装着した。

　「ケイドさんに謝らないんですか？」

　「何故俺が？」

言われた言葉の意味が心底意分からないと言うかのように顔を歪めたスタースクリームの声を聞いた若葉は、唖然とした顔をして絶句する。
　しばしの間、２人は無言のまま見つめ合っていたのだが、次第にスタースクリームが本気で言っているのだと理解した若葉は深々と息を吐き出すと視線を逸らした。

　「手を叩いたでしょう？」

　「あぁ。そうだな。だがアレはあの虫けらがお前に触れようとしたからだ」

　「握手しようとしただけですよ？」

　「俺はお前の護衛だ・・・お前の身に何かあってからでは遅い」

護衛、その単語を聞いた若葉は少しだけ戸惑いを滲ませるかのように視線を左右へと動かす。
　膝の上に置かれた手が何かを堪えるかのように握られるのを見たスタースクリームは呆れたように目を眇めると、深々とため息を吐き出すと口を開く。

　「それで？今度は何が不満だ？」

　「不満なんて」

　「ならば何が不安なのだ？」

不安、その単語を聞いた若葉は驚いたようにスタースクリームを見つめる。
　若葉からジッと無言のまま見つめられることとなったスタースクリームは自分は何か変なことを聞いただろうか？と思いながら若葉を見返していたときだ。

　「私は、不安なんでしょうか？」

　「・・・・はぁ？」

何をコイツは言っているのだ？と言うかのような口調でスタースクリームは問い返す。
　何故質問に対して疑問系で返してくるのだ？
　そう言うかのように物言いたげな視線だけを返す。
　人間のこうした感情による発言は理解出来ない。
　自分達に劣るとは言え物事を判断できる脳があるはずなのに、人間達は脳で下される判断ではなく、感情による意味の無い決断をすることがあるのだ。

　「俺が知るか」

吐き捨てるようにして答えたスタースクリームは若葉の様子を伺う。
　先程までは年相応の小生意気な反応をしていたのに、気づけばあの基地にいた時と同じような周りの目を気にするかのような反応に逆戻りしていた。
　その事に気づく度にスタースクリームの機嫌を下げ、そしてその機嫌の悪さは不快へと変わっていく。

　「そうだ。俺が知るか、貴様のことなどな」

深いと不機嫌さを隠さぬままスタースクリームは若葉へと手を伸ばす。
　触れた指先から伝わってくる人の温もり。
　ソレは確かに少し前までならば嫌悪感しかなかったはずのものだ。
　けれど今はその温もりに対して違う感情を抱き始めている。
　そんな自分の変化を喜ぶべきか、それとも嘆くべきか、スタースクリームには解らない。

　「若葉」

名を呼ばれた若葉は驚いたように目を見張る。
　幼い眼差しに映る自分の顔を見る前にスタースクリームは視線を逸らす。

　「貴様の抱くその不安を消すための答えなんて貴様の中にとっくの昔にあるのではないか？」

素っ気なく言われた言葉、その言葉は若葉の中に何故かストンと落ちてきて、そしてソレが当たり前のことのように受け入れられた。