飛行機に乗り込んできたのは体格の良い男と、美人な女の子とその彼氏らしい男だった。
体格の良い男が彼氏らしき男に向かって何かを告げると、眦をつり上げた女の子がムッとした顔をしかたと思えば、男へと向かい早口で文句を言い始める。
　まるで機関銃のように次々と何か文句を言っている女の子の口から時折、「パパ」という単語が聞こえてきた為、２人が親子なのだと理解した若葉は彼等の関係を理解する。
　けれど自分の考えだけで物事を決断するのは良くはないだろうと判断した若葉は、隣に座るスタースクリームの上着を少しばかり乱暴に引っ張り問いかけた。

　「彼等は？」

　「メアリングが同行するように命じた人間だ。最年長の男がケイド・イェーガー。女のガキがケイドの娘のテッサ、残る虫けらはテッサの恋人のシェーン・ダイソン」

興味が無いらしいスタースクリームは彼等を見ることなく淡々とした口調ではあったが説明をしてくれた。
　スタースクリームの視線は彼が持っている携帯端末へと向けられていて、若葉はこっそりとその端末へと視線を向けてみるとそこには見た事が無い文字が大量に表示されていた。

　「読めないだろう？」

勝ち誇ったかのような口調で返された言葉に若葉はムッとした顔をした時だ。
　スタースクリームがケイドと呼んでいた男が２人のシートの近くへとやって来る。ケイドが近づいてきたことくらいスタースクリームには解っていたのだろうが、意図的に無視しているらしく視線はずっと端末に向けられたままだ。
　２人の側まで来たケイドはスタースクリームへと話しかけようとしているのだが、肝心の人物が完璧にケイドの存在を排除してしまっているため途方に暮れたような顔をして立ち尽くしている。
　その間にも娘の方がこの好機を逃さないと言うかのように彼氏と早々に席に座って、楽しそうに会話を交わしており、何となくこの父親の存在が若葉には可哀想に思えた。
　だからこそケイドという人物のために助け船を出すことにした。

　「ねぇ。なんかアンタに話があるみたいだけど？」

　「そうか。だが俺は無い」

　「いや・・・そうじゃなくてさ。とりあえず端末を見るのは止めようよ？」

　「断る」

間髪おかずに返される言葉に若葉はどうやったらこんなにも意地の悪い性格になれるのだろうか？と思いながら見つめていた時だ。

　「・・・はじめまして」

ぎこちない日本語に驚いた若葉がケイドを見る。
　視線が合ったケイドはニカッと微笑みながら手を差し伸べてきた為、若葉も微笑みながらその手を握ろうとした時だ。
　パァンッという音と共に差し出されていたケイドの手が叩き払われる。
　誰がケイドの手を払ったのか、それを確認するために視線を動かした若葉の目がとらえたのはスタースクリームの姿だ。
　今なお、視線は端末へと向けられているがその目が鋭く細められていることから彼がケイドの手を叩き払ったことは間違い無い。

　「ちょっ！？なにしているの！？」

　「俺は何もしていない」

　「いや、したでしょ！？絶対にしたよね！？ケイドさんの手を叩き払ったよね？」

　「してない」

　「した！絶対にした！！ケイドさんに謝って！！早く！ほらッ！！」

　「嫌だ」

　「・・・・ッ！！子どもみたいな我儘言わないでよ！！」

自分は絶対に悪い事をしていないと主張するかのようなスタースクリームの態度に対し、我慢の限界を迎えた若葉は端末へと視線を向けたままのスタースクリームの両頬を両手で覆うと強引に視線を上げようとする。
　けれどスタースクリームもそうはさせるか！と言うかのように必死に抵抗する。
　そんな２人の姿を見たケイドはポカンとした顔をしていたが、我慢できないと言うかのように大きな声を上げながら笑い出す。