触れた箇所方伝わってくる他人の体温に気づいた若葉はホッと胸をなで下ろす。
　けれどすぐにキッと眦をつり上げると、自分の頭上よりも高い位置にあるスタースクリームを恨めそうな眼差しで睨めつける。

　「飛行機の中で喧嘩しないで下さい」

狭い機内で銃撃戦を行えばそれこそ、アクション映画顔負けの悲惨な事態へとなりかねないと思いながら若葉が告げれば、スタースクリームは驚いたように切れ長の目を微かに見開いていたが、若葉が言わんとする意味を悟ると馬鹿な事を言うなと言うかのように鼻で一笑する。

　「安心しろ。この飛行機が落ちようともお前は守ってやる。俺はお前の護衛だからなッ！解ったら俺の事を崇めろ！」

　「いや、そもそも落ちるような事をしないでくださいよ！？飛行機落ちそうなレベルの喧嘩とかしないでくださいよ！！」

　「喧嘩などという生温い事はするつもりはない。俺がやるのはただの殺し合いだ」

　「なおのこと駄目に決まっているじゃないですかっ！！」

至極当たり前のことのようにサラッと返された言葉に対し、若葉は冗談ではないと思いながらその意見を却下するのと同時にしがみついているスタースクリームの腕へと爪を立てた。
　微かな痛みに顔をしかめるスタースクリームに向かい、若葉は先程までスタースクリームが座っていたシートを手でバシバシと叩きながら告げる。

　「ほら！大人しく座ってて下さい」

　「断る」

　「はぁ！？」

　「何故俺が貴様の言いなりにならなければならない？」

ニヤニヤと楽しげに笑いながら心底理解しかねる、と言うかのようにスタースクリームが口にした発言に対して若葉は怒りでこめかみが引きつるのを感じ取っていた。
　けれど、頭の片隅ではスタースクリームの返答も事実だということも解っていた。
　自分はメガトロンからも見捨てられた立場だ。
　彼が護衛としてスタースクリームを派遣してくれたのも、見限られたとは言え血の繋がりのある娘を思う母を慮ってのことだということくらい若葉とて解っている。
　スタースクリームが意図してのことなのか、それとも彼本来の性格なのかは解らないが、軽口を叩けるような雰囲気を作り上げてくれていた為、若葉もソレに合わせてしまっていたが冷静に考えてみればスタースクリームの言うとおりだ。
　母の娘としての立場を追いやられ、メガトロンからも見捨てられてしまった自分の言葉など、誰も聞いてくれるわけが無い。
　ソレを理解したのと同時に若葉の顔から表情が消える。

　「・・・そう、ですね。確かにそうでした」

　「お、おい？」

　「私が何か貴方に何か言える事ってありませんね」

　「おい！小娘、ちょっと待て。俺の話を聞け」

　「色々とすみませんでした」

しがみついていた腕からそっと離れた若葉はシートに座り直す。
　様子が急におかしくなってしまった事に対し、スタースクリームは戸惑うかのように視線を彷徨わせていた時だった。
　
　「・・・・。・・・・・。・・・・・・・・・。」

機内にあるスピーカーから男の声で何かが告げられ、それを合図にキャビンアテンダント達が慌ただしそうに動き始める。
　アナウンスは英語であった為その内容が分からなかった若葉は、先程のアナウンス何があったのだろうか？そう思いながら若葉が彼女達を見ていたときだ。
　音を立ててスタースクリームがシートに座ると、シートベルトを装着する。

　「給油と乗客を乗せるために空港に寄るらしい」

素っ気ない声ではあったがスタースクリームは先程のアナウンスを訳してくれた。
　その事が嬉しかった若葉が小さな声でお礼を告げれば、スタースクリームはフンッと鼻を鳴らしただけで何も言葉を返してはくれなかった。