飛行機の中の雰囲気は一言で言えば最低最悪だった。
　それはオートボットから若葉の護衛として派遣されたのがサイドスワイプだったからだ。彼に対してあまり良い印象を抱いては居ない若葉は飛行機に搭乗してきたサイドスワイプの姿を確認するのと同時にピシリと音を立てて固まった。
　そんな若葉の反応に気づいたサイドスワイプは舌打ちをすると若葉から少し離れた席に音を立てて座ったきり不快そうな顔をしたまま黙り込んでしまっていた。
　苦手意識があるとは言え、それを顔に出してしまったことに対して若葉はサイドスワイプに対して謝罪しに行こうと腰を浮かせたのだが、そうはさせないと言うかのように隣に座っているスタースクリームに肩を掴まれてしまう。
　
　「放っておけ。自分のしでかしたことの意味を何一つとして理解していない馬鹿に何を言おうとも無意味だ」

吐き捨てるかのように言われた言葉には強い怒りが宿っていて、一瞬だけスタースクリームの赤い瞳が若葉の左腕へと向けられる。
　ソレに気づいた若葉は無言のまま包帯の巻かれている左腕へとそっと手を添えると椅子に座ると、スタースクリームは満足そうにゆっくりと頷く。
　飛行機はまだ離陸する気配は無く、機内は相変わらず張り詰めた雰囲気であるためキャビンアテンダント達は込み上げてくる不安を無理矢理押し殺しているせいか引きつった笑みを浮かべて待機しており、彼女達と目が合った若葉は申し訳ないと言うかのようにそっと頭を下げる。

　「監視役が居ないのならばこそ好きに行動できるな」

　「あの・・・」

　「なんだ？」

　「何故貴方が私の隣に？ほ、ほら？席なら他にもあるじゃないですか？」

遠回しに自分のそばから離れろと若葉は告げたのだが、スタースクリームはその言葉を聞くとハッと鼻で一笑する。

　「良いか小娘。俺は貴様の護衛だ。俺としては全くもって望んではいない役目だが、与えられたからには任務を全うするのが出来る男というものだ」

　「望まずとも与えられたのなら誰かとチェンジすることをお薦めしますよ。離陸していない今なら交代できますよ？私としてもそれを心から望みます」

　「貴様の護衛に立候補した気が狂った奴もいたが、そんな奴らではなく選ばれたのはこの俺だ！！ちなみに立候補したのはサウンドウェーブとショックウェーブだ。アイツ等はどちらかがなれるだろうと思っていたのだろうが、まぁアイツ等よりも優秀な俺へとフォールン様は護衛役を与えられた。その時のアイツ等の顔は見物だったぞ？」

　「うわぁ。この刺青男ってば性格が最低だ」

　「刺青男ではない！俺はスタースクリームだ！！・・・貴様の護衛は気が乗らんが、サウンドウェーブとショックウェーブのあの悔しげな顔を見られた事。そして何かと俺に刃向かってくるブラックアウト、俺の事を小馬鹿にしてくる甘味馬鹿のバリケードの屈辱に満ちた顔を見られた事だけは良かったな」

　「今の言い方だと仲の良い人って居ないの？あ・・・ごめん、もしかして触れちゃ駄目なすっごくデリケートな部分だった？」

　「そんなわけあるか！俺はなぁ！ディセプティコンの中でＮＯ.２なんだぞ！？メガトロンの右腕なんだぞ！？友達なんて居なくとも平気だ！」

妙に鬼気迫った顔で反論してくるスタースクリームの姿を見た若葉は何とも言えない生温かな眼差しを向ければ、引きつった顔をしたスタースクリームはブンブンと首を振りながら「俺には友達なんて不要だ！」と壊れた機械のように繰り返し続けており、それに対して若葉は慈愛に満ちた笑みを浮かべながら頷いていたときだった。
　誰かが飛行機の中へと搭乗してきた為、若葉は搭乗口へと視線を向けるとそこには見た事が無い男が居た。
　鍛え上げられた体、研ぎ澄まされた雰囲気から明らかに一般人では無い。
　現れた男をマジマジと見つめていたためか、男の視線が若葉へと向けられる。
　その目の色は深い緑色をしており、照明の関係からか男の目がまるで微かに発光しているかのように感じられたときだった。

　「ロックダウン・・・・貴様ここに何をしに来た？返答次第ではここから生きて帰れないと思え」

若葉が聞いたことが無いほどの鋭い声と共にビリッと空気が震えるほどの何かが狭い機内に満ちていく。
　息苦しさを感じるほどの凄まじい気配に若葉は息がすることが出来なくなる。
　この場を支配する何かを発しているのはスタースクリームで、彼は鋭く目を細めながら緑色の目をした男、ロックダウンを睨み付けていた。