レノックスの運転する車で飛行場へと到着した若葉は辿々しい英語の発音でお礼を告げ、車から降りようとしたのだが何の前触れも無くポンッと頭に何かが乗せられ、軽い衝撃に驚き動きを止めてしまう。
　恐る恐る自分の頭に乗っているものを確認してみるとそれはレノックスの手だった。
　どうしたのだろうか？何か言いたいことがあるのだろうか？そう思いながらレノックスの顔を見た若葉の目が捉えたレノックスの顔はどこか思い詰めたかのようなものだった。
　何故そんな顔をするのだろうか？そう思いながら若葉はマジマジとレノックスの顔を見つめていると、若葉が戸惑っている事に気づいたらしいレノックスは無理矢理笑みを浮かべると無言のまま若葉の頭をグリグリとなで回すと手を離す。
　大きな掌が自分から離れていくのを若葉は黙って見つめる。
　力強くて頼りがいがある大きな手はどこかメガトロンの手と似ていて、離れていくその手に縋りたくなってしまった若葉はそれは駄目だと自分に言い聞かせる。

　「（私はきっとここに来る事はもう無い）」

最大の味方である母を裏切ってしまった自分への扱いが今後は悪くなっていく一方である事くらい若葉は解っていた。
　事実、娘の帰国に母は見送りにも来ないし、メガトロンも姿を見せることは無い。
　下手をしたら今後は母と会うことは本当に難しくなってしまうかもしれない。それはとても辛いが、そうなってしまったのは全て短慮な自分の愚かさ故ではないかと若葉は思うと自嘲の笑みを浮かべる。
　ここで親切にしてくれた人と会う機会が今後無いのならばこそ、きちんとお礼を言っておかなければならないと若葉は思うとレノックスへと視線を向けた。

　「レノックスさん」

思い返せばレノックスにはここに来る時からずっとお世話になりっぱなしだった。
　言葉を交わす事は出来なかったが、何となく伝わってくるニュアンスと彼の雰囲気に何度も救われた。

　「ありがとうございます」

心から感謝しているというかのように伝えた若葉は車から降りると、すぐに見慣れぬ軍人達がやってくる。
　どこか引きつった顔をしている彼等の姿を見た若葉は何故彼等がそんな顔をしているのか理解出来ず、不思議そうに小首を傾げていた時だ。
　軍人達を押しのけながら１人の男が姿を見せた。

　「久しぶりだなぁ・・・小娘」

嫌みったらしい笑みを浮かべながら楽しげな口調で話しかけてきたのはスタースクリームだった。
　何故彼がここに居るのだろうか？そう思う気持ちを無意識の内に若葉は顔に出してしまっていたらしく、瞬時に若葉の言いたいことを理解してしまったスタースクリームは引きつった笑みを浮かべる。

　「俺とて好きで貴様の前に居るのではない。フォールン様から日本に帰国する貴様の護衛をしろと命じられたんだ・・・そもそも俺としては貴様の護衛なんて望んでは無い」

　「そうだったんですか」

護衛として同行すると聞いていたのだが意外すぎる人選に若葉は心中でフォールンに対して思い切り文句を口にしていた時だ。
　こちらに接近してくる一台の車に気づく。
　スピードを落とすこと無く接近してくる車に気づいた軍人達が慌てて若葉の前に立つ。

　「あぁ。来たようだな」

　「誰が来たんですか？」

　「クソボッツから選ばれた護衛だ」

気に入らないと言うかのように吐き捨てたスタースクリームは接近する車を睨み付けていたが、フンッと鼻を鳴らすと若葉の右腕を掴むと飛行機へと向かって歩き出す。

　「え？あの？待たないんですか？」

　「不要だ。そもそもフォールン様も俺もボッツからの護衛なんて希望していなかったんだ。それなのにメアリングとか言う女が強引に同行させてきた・・・よりにもよって血の気の多い奴を派遣してくるなんてあの女虫けらは頭が沸いているのか？」

ブツブツと小声で文句を言いながら歩くスタースクリームに引きずられるかのようにして若葉は脚を動かす。
　そもそも、脚の長さが違うのだから少しくらいは配慮してくれ！と思うのだがそれを口にしたのならばきっと盛大に笑われると解っていたからだ。