自分は一体どう動くのが最善なのだろうか？そう思いながら若葉はこの場にて唯一そういった事に長けているだろうメガトロンへと視線を向けるのだが、メガトロンは若葉の縋るような視線に気づいているのだろうがあえてそれを黙殺していた。
　若葉にとってメガトロンだけが頼みの綱だというのに、メガトロンはこの場から自分の気配を消すかのように黙り込んでいる。
　あまりにもらしくないメガトロンの態度に若葉は内心、首を傾げていたときだ。

　「若葉。メガトロンは疲れているようだから少し休ませてやろう」

名前を呼ばれた若葉が声のした方を見るとそこに自分を見つめてきているフォールンの姿があった。
　若葉は今、フォールンの家に来ていた。
　元々の予定ではオプティマスの家で一晩を空かす予定だったのだが、大人の事情というものが急遽起きてしまったらしく彼の家に泊ることは出来なくなったとメガトロンから伝えられた。

　「師よ。別に疲れてはおりません」

　「遠慮しなくても良い。博士達が来ると聞いてお前が色々と動いていた事を私が知らぬとでも思ったか？家の改築から、年頃の娘が好みそうな菓子を手に入れたりしていたなぁ。・・・博士が身籠もったことを知ったお前がオートボットの軍医と人間の医者に色々と相談をしたり、色々と調べたりして碌に休んではいないとプライムから報告を受けている」

フォールンの言葉にメガトロンはばつの悪そうな顔をすると乱暴に頭を掻いた。
　特に反論をしなかったことから事実なのだと理解した若葉がメガトロンの顔をジッと見つめてみると目の下に隈ができている事に気づく。
　色々な事が起きて疲れているだろうメガトロンに対し、自分は負担ばかりを掛けてしまったと思った若葉の顔が強ばる。
　謝罪の言葉を口にしようと若葉が口を開こうとした瞬間、フォールンのしわがれた手が若葉の頭をそっと撫でる。
　
　「この男は昔から弱みを他人には見せない、気づかせない、知らせない、という何とも難儀な性格をしている。その事に気づけるのは師である私か、付き合いの長いプライムくらいなものだから仕方ない・・・なんともまぁ意地っ張りな性格をしているものだ」

誰のせいではないのだと言うかのようなフォールンの言葉に若葉は少しだけ救われたような気がした。

　「メガトロン。お前は休め。若葉の事は私が面倒を見ておく」

　「ですが師よ」

　「良いと言っているのだ」

妙な威圧感を放ちながらフォールンがきっぱりと言葉を言い放つと、メガトロンは赤い目を少しばかり彷徨わせながら座っていた椅子から立ち上がるとドアを開けて去って行ったメガトロンの姿があまりにも弱々しく、若葉はあのまま行かせて良かったのだろうか？と思いながらドアを見つめていた時だ。

　「若葉は疲れていないかな？」

　「はい。私は大丈夫です」

　「そうか。眠くなったらすぐに言いなさい」

　「ありがとうございます。・・・フォールン様」

フォールンがメガトロンの師であるのならば敬意を持って接した方が良いだろうなと判断した若葉が様付けをしてフォールンを呼ぶと、フォールンは少しばかり残念そうな顔をした。
　何故そんな顔をするのだろうか？もしや自分の呼び方は不敬だったのだろうか？そう思った若葉が焦りを抱きながら謝罪を口にしようとした時だ。

　「私のことはフォールン様ではなく”おじいちゃん”と呼ぶように」

　「・・・え？」

何をこの人は言っているのだ？
　唖然とした顔をして若葉はフォールンの顔を凝視する。
　意外とこの人は冗談が好きなのだろうか？または自分をからかっているだけかもしれない、そう思いながら若葉が黙っているとフォールンは期待するかのような目をして見つめ返してきた。
　キラキラと輝く赤い目を見て若葉はフォールンが本気でそう呼んで欲しいのだと理解するが、それに対して素直に従って良いとは思えなかった。
　見るからに好々爺とした雰囲気のフォールンであるが彼が見た目通りではないということくらい若葉とて解っている。