フォールン相手に勝ちは薄いと判断したらしいセンチネルは嘆息をする。
　それは若葉の事に関してこれ以上、何かを言うつもりは無いという彼なりの意思表示だ。

　「若葉は今後もメガトロンが管理する・・・異論はあるか？」

　「ない」

　「それは良かった」

朗らかに微笑みながらフォールンが告げた言葉に対してセンチネルは苦々しい顔をしていたが、不意にフォールンへと向けられていた青い目が若葉へと向けられる。
　知的でありながらもどこか冷たさを感じさせる青い瞳。
　ソレと目が合った若葉は無意識の内に身体を強ばらせる。
　
　「（この人は・・・自分の企みを諦めてなんていない）」

静かな目の奥にある強い意志、決して自らの考えを捨てはしない、諦めはしない、と言うかのような力強い意思を感じ取った若葉は一瞬だけ息をすることを忘れる。
　少しでも隙を見せてしまえば、油断をしてしまえば、きっと自分はセンチネルという人間によって食われてしまうと若葉は理解した。
　ツッと音も無く汗が頬を伝い落ちていくがソレを拭う事をせず、若葉はただ黙ってセンチネルを見つめていると彼の目が静かに逸らされる。

　「その娘の事に関しては後日話し合いの場を設けさせて貰う」

　「不要だと言いたいが、色々と問題が起きたことも事実。故にそちらの抗議を受け入れよう・・・まぁそれに関しても”そうなるように”影で暗躍していた奴がいたようだ」

自らの手を汚さぬまま自分にとって都合の良いように事を運ぶように仕向けた者が居た。そう言うかのようなフォールンの物言いに対し、センチネルは微かに目を細め、オプティマスは驚愕した顔をしたまま固まる。
　それだけで誰がどのような行動を取ったのか明らかだ。

　「行くぞ。オプティマス」

多くを語らぬまま去って行くセンチネルの背を若葉は無言のまま見つめる。
　影ながら暗躍していたのが彼である事くらい若葉には解っていて、そしてセンチネルの企みに乗って行動して動いていたのは実父だ。
　甘い誘い、欲を満たすかのような言葉、それを疑うことをせず受け入れた結果、全ての責任を押しつけられてしまった愚かな道化となってしまった父は今、メガトロン直々に制裁を受けている。

　「私も少しこの場を離れる・・・・少し、気になるのでね」

血の気を引かせたラチェットがフォールンへと話しかければ、フォールンは微笑みながらコクリと一つ頷く。
　その事にホッとしたかのように少し目元を和らげたラチェットは若葉へと視線を向けると、何かを言おうとしていたのだがそれを思うように言葉に出来ないと言うかのように口を開いては閉じるということを繰り返す。

　「ラチェットさん。その・・・私が言うのも変な話しかもしれませんが、オプティマスさんの事をお願いします。なんだか少し様子がおかしかったので」

彼らしくはないような気がしていた若葉がそう告げるとラチェットは驚いたと言うかのように目を見開いた後、くしゃりと顔を歪ませると若葉の頭をそっと撫でる。

　「ひとつ良いかな？」

　「なんでしょうか？」

　「君は他人の罪まで、他人の愚かさまで責任を感じることはない。センチネルの企みに最終的に乗ったのは教授なんだから・・・故に責任は彼にだけあって君にはない。娘だからと言って、父だからと言って、君が何もかもを背負う必要はないということを忘れないでくれ」

頭を撫でていた手が縋るように若葉の髪を一房掴む。
　それはまるでこの場に若葉を留めるかのような仕草であった。

　「・・・・えぇ。解っていますよ。だから大丈夫です」

そう言って微笑んだ若葉の顔を見たラチェットは顔には出さなかったが、自分達が若葉の心を傷つけたことを悟る。
　チラリとフォールンへと視線を向ければ、老獪な宿敵は全て解っていると言うかのような笑みを浮かべながら頷く。