若葉が少しばかり落ち着きを取り戻すのと確認したメガトロンはグリグリと頭を乱暴に撫でると「少しばかりあの男と話をしてくる」と妙に嬉しそうな声でそう告げるのと同時に、どこからか男達が姿を見せる。
　彼等は一瞬だけ若葉へと視線を向けただけで特に言葉を投げかけてくるでもなく、倒れていた父を強引に立ち上がらせると部屋の奥へと姿を消していった。

　「やれやれ・・・あの教授のやったことを考えれば仕方の無い事だとは解っているのだが、メガトロンだけではなく参謀達までもが相手となると少しばかり同情するよ」

これから行われる事があまり良くはないと確信しているらしいラチェットの発言を聞いた
若葉は、まさかメガトロンが感情にまかせて暴力行為に出るのでは？という不安を抱く。
　
　「ラチェットさん」

　「なにかな？」

　「閣下は父に暴力をふるうなんて事はしませんよね？」

　「大丈夫だよ。メガトロンも話をすると言っていただろう？」

朗らかに微笑んだラチェットの言葉に若葉はそうだったと思い納得をしたのだが、なんとなくこれから行われるだろう話し合いが”ただの話し合い”で終わる訳がない事は感じ取っていた。
　メガトロンの性格的に恐らく、いいや、間違い無く脅迫すれすれの話し合いをするだろう。それは話し合いの席に向かって歩いて行くサウンドウェーブの足取りがなんとなくだが軽そうに見えたことから明らかだった。
　彼に以外にもこれから行うことに対して、絶対に良くない意味で妙に意気込んでいる刺青男の横顔を若葉はしっかりと見ていた。

　「若葉。今はメガトロンの事よりも君の事を優先しよう。傷を見せて貰っても良いかな？」

　「あの・・・その前にサイドウェイズさんの事を見て頂いても良いですか？」

今の今まで黙り込んでいたサイドウェイズへと若葉が視線を向ければ、そこには何とも言えない顔をしているサイドウェイズの姿があった。
　何故そんな顔をしているのだ？と思った若葉が小首を傾げると、サイドウェイズは今にも死にそうな声音で告げた。

　「俺スクラップにされるかもしれねぇ」

　「安心したまえ。さすがのメガトロンもそこまでしないだろうさ。せいぜい、半壊くらで留められるだろう」

　「軍医。アンタ俺のこと慰めているのか？それともビビらせにきてんの？」

　「さてさて・・・どちらだろうねぇ？」

サイドウェイズの身体の状態をスキャンし始めるのと同時に、負傷して機能を停止している左のカメラアイの状態を確認し始めた。
　表示される損傷箇所が想定していたよりも多かった事、そして内部システムへのダメージがかなり深刻である事に気づいたラチェットはこれはもう自分のラボに連れて行って丸ッと治療した方が早いと判断するとジョルトに対してすぐに来るように通信を送る。

　「君の治療はここでは無理だな」

　「・・・それってアンタのラボに連れて行かれるって事か？」

　「その通りだ。歓迎するよ」

ニコニコと酷く上機嫌な笑みを浮かべるラチェットとは対照的に、サイドウェイズの顔は絶望で染まる。
　今すぐ逃げようとしたのだが身体は全くと言って良い程動いてはくれず、微かに身を捩るだけで終わってしまう。
　自分はメガトロンではなくこの軍医によって解体されるのだ。
　そう悟ったサイドウェイズの口から乾いた笑い声が出るだけだった。

　「まぁ生きていられただけ良しとすると良いさ」

慰めるかのようにそっと肩を叩いてきたラチェットの言葉にサイドウェイズは何とも言えない顔をすると、無言のままそっと視線を逸らした。