何故ここにメガトロンが居るのだろうか？どうしてこの場所が解ったのだろうか？そんな疑問を抱きながら、目の前に居るメガトロンと父を見つめる事しか出来ない。
　父は未だに若葉の髪を掴んだままで、髪を掴んでいる父の手首をメガトロンが掴み若葉への暴力を止めている状況だ。

　「俺は同じ事を二度言うつもりはないぞ？」

　「・・・ぐッ」

呻き声を上げた父の手が若葉の髪から離れたのを確認したメガトロンはスッと赤い目を細めると、問答無用で父の胸ぐらを掴み上げたかと思えば部屋の奥へと父の身体を投げ飛ばす。
　床の上を転がりながら吹き飛んでいく父の姿を若葉は唖然とした顔をして見つめる事しか出来なかった時だ。

　「若葉」

聞き慣れた声に名前を呼ばれた若葉はビクリと身体を震わせると、恐る恐るメガトロンへと視線を向ける。
　思い出せば自分は勝手に脱走をしたのだ。
　きっと怒り狂っているのだろうなぁと思いながら若葉がメガトロンを見上げたのだが、そこにいたメガトロンには怒りの感情は浮かんでいなかった。
　代わりに浮かんでいたのは辛そうな表情で、いつもは他人を威嚇しているかのような鋭い眼差しは痛ましげに歪められている。
　視線を合わせるかのようにそっとその場に片膝を着いたメガトロンは若葉の左腕へと手を伸ばす。

　「愚か者め」

未だに流れ出る血が足下に血だまりを作り上げている。
　先程までは鋭い痛みがあったはずなのに、気づけば痛みの波は引いており今は全くと言って良い程痛みは感じられない。

　「見た目程痛くはありません」

　「だから愚か者なのだ・・・今のお前はある種の興奮状態にあって、そのせいで痛みを感じてはいないだけにすぎない」

呆れたようにそう呟いたメガトロンはペシンと若葉の額を軽く叩いた時、若葉が抱きかかえているサイドウェイズに気づくとクワッと赤い目を大きく見開いた時だ。

　「おやおや随分と熱烈な関係のようだ」

楽しげな声音と共に現れたのはラチェットで、彼は若葉とサイドウェイズの状態を確認すると一瞬だけメガトロンへと意味深な視線を向ける。
　メガトロンはそれに対して何か言いたそうにしたが、チッと舌打ちをすると無言のまま立ち上がると若葉に背を向けるとどこかに向かって歩き出す。

　「ッ・・・待って閣下！！」

慌てて右手を伸ばした若葉はメガトロンの手を掴む。
　掴んだ手はまるで氷のように冷たく、それが彼らしくなかった事に若葉は驚き手を引こうとしたのだが、その手をメガトロンの大きな手が包み込む。

　「なんだ？」

　「あの！！・・・勝手な事ばかりしてごめんなさい」

無意識の内にメガトロンの手をギュッと握りながら若葉は今言わなければならない言葉は他にあるはずだと思うと、それを言おうとするのだが何故かそれを声にすることは出来ない。
　声に出してしまえばきっと自分は泣いてしまうと解っているからだ。
　荒れ狂う感情を必死に抑えつけながら若葉は自分を落ち着かせようとするのだが、向けられる赤がそれを許してはくれない。
　気づけば涙が溢れ出していて、嗚咽を上げながら若葉は掴んだ手にそっと額を押しつけた。

　「来てくれてありがとう」

辛うじて言えた言葉は震えていて聞き取りづらかったはずなのに、メガトロンの耳には確かに聞こえたらしく、彼は困ったように微笑むと空いている方の手で若葉の頭をグリグリと乱暴になで回す。
　その温もりが、その仕草が、あまりにも優しくて若葉は気づけば声を上げて泣いていた。