2066 X'mas ティータイムのあとは

さて、どれにしよう?
アンティークな欧風ホテルにあるモールの片隅の雑貨店で、陳列された球形のガラスの中の小さな世界を一つずつ見比べる美少年。そのアンニュイな透明感は、まるで映画のワンシーンのようだ。

綺麗な薄褐色の瞳が覗き込むスノードームの中ではスノーマンが笑い、もう一つからはサンタが手を振る。真ん中のは綺麗な町並みで、その隣には森のなかの教会、そして端では天使が楽器を奏でている。
口元に拳をあてて腰を折った姿勢で思い悩む“見た目”少年な薪剛が、美しい眉間に皺一つ寄せず穏やかな表情でいるのも、クリスマスの奇跡みたいに珍しいことだった。

……よし、これにしよう。

ひととおり宙で迷った指先が、真ん中のに伸びて手に取った。

台座にも冬の町並みが刻まれたドームの中の煉瓦造りの家々にはリースが飾られ、はしゃぐ子どもや犬などが細かく造作されているドイツ製。
逆さにして戻しキラキラと雪を降らせると、球形の中の町が仄かに息づいてみえる。

そうだ、来年あたり三人で一度クリスマスマーケットに行けたらいいな。メルヘン好きな少女がローテンブルクの街並みではしゃぐ姿が目に浮かぶ。
箱を包んだ紙袋を受け取って時計を見ると、そろそろ“約束の時間”だ。
包みをコートの下に隠しながらもつ薪の柔らかい表情は、今朝半日前の科捜研所長席での剣幕とは全くの別人だった。



「オカベ」

最年少の直属部下が有給休暇を取得した、クリスマスイブの朝。
立て込んだ空気の第三管区内で、所長が低く呟く声はボリュームを押さえていても特別な周波数で所内に行き渡るらしい。その一言だけで、忙しく指揮を取る室長兼最年長の直属部下が、血相変えて飛んでくるのだから。

理由はわかっていた。
薪が自分のスケジューラにこっそり入れられていた、15時からの謎の予定を見つけたのだ。


「この、非公開設定の予定の記載が『非公開』って、ナメてるのかお前?」

「ええ、まあ」
所長席から遠巻きに立つ岡部が「察してくださいよ」とぼそりと呟く。

「誰の差し金なんだ?」

「いや、もうほんとに察してください。んでもって、黙って行ってやってくださいって」

「は?意味がわからないな」

いやフツーにわかるでしょ。
事件のことなら何でも見抜く癖に、どうしてこういう時だけ超鈍くてめんどくさくなるんだこの人は?
岡部は下を向いて、込み上げる苛つきを圧し殺す。

「じゃあもう一度言いますが、こないだ例の事件が解決して、こっちのみんなで一杯やったでしょ?一人だけ遠くにいて来れなかったヤツがいるから、埋め合わせしてやんなきゃ……ってこの話、前にもしましたよね?」

「ふ~ん、僕だけが行くのか?お前の方が暇そうなのに?」

岡部は深いため息とともに涙目で上司を見返し、ヤケクソで声を張り上げた。

「アンタわかってるでしょ、“今日この時間にあなたと二人で” ってのが、本人たっての願いなんですってば!!!!」
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