2066 X'mas ティータイムのあとは

そう、か。
きっと僕は、あの日も“特別” を求めていたんだ。
スイーツを見つめる薪の思考がふと、荻窪での暮らしが始まったばかりのクリスマスの晩に飛んでいく。

子ども一人で食べきれるわけがないホールケーキと、コンビニの駐車場でそれを半値で売りさばくバイトのサンタ。
前の年に見かけたクリスマス独特の光景が、ただ頭に残ってたから。同じ景色を見ようと思い立ち、ふらりと一人で家を出たあの夜。それで不審者につけられて、私服の警察官に保護され帰宅した、少年時代の記憶。

おかしなことにそれ以来、その警察官と夢に出てきた “風変わりなサンタ” が、ごっちゃになって頭のなかに棲んでいる。
サンタと二人で甘すぎるケーキと温かい紅茶をシェアした、あれはたしかに “特別な時間”だった。でも夢であろうと現実だろうとあの晩限り。何故ってあのサンタは方向音痴だったから、もう二度とこれない。でもこなくても “君をずっと想ってる” と、力強く約束してくれた―――

「え……」

「どうしました?薪さん」

「いや……」

顔も忘れていたはずのあのサンタの笑顔が一瞬、青木と重なった気がしたのだ。

「お前、甘いもの好きだったよな?」

「ええ、好きですが、そのピスタチオのムースは薪さん食べないと勿体ないですよ」

「……ああ、うん」

スイーツの類いをどれか押し付けようとしてるのを見抜かれた薪は、翠色に輝く球形のムースを自分の皿にサーブする。

「濃厚なクレームダマンドにキャラメルの香ばしさを、極上のディンブラで味わわずしてどうするんです?」

「…………」

確かに、魅惑的なマリアージュだ。

口にした薪はその香りと風味の麗しさに目を見開く。

「シューのクリームはちょっと重いので、俺がいただきますね」

至れり尽くせりとはこのことだろう。
薪は子どものように目を丸くしたまま頷いた。
そしてにこやかにシューを頬張る年若い部下を前に、大人のたくらみを企てる。
クリスマスのスイーツの〆にふさわしいこの芳醇な後味を、別れぎわにとっておきのキスにして届けてやろうか……
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