Device

 タクシーを拾うなら大通りだろう。
 急いで足を向ければ、読みどおりの場所に、遠目からでもタクシーに手を振っておくりだす大男の姿が見える。

「青木っ!」

「え?あれ、薪さ……」

 必死の形相で青木に突進してきた薪は、徐ろに背広をコートごと思いっ切り開いた。

「わっ!ど、どうしたんです?」

 慌てる青木を意に介さず、薪は相手の内ポケットやズボンのポケットをくまなく探り、財布やハンカチ、スマホを取り出して見つめる。

「これは……違うな」

「わ〜っ!!俺のスマホ!!投げないでっっ」

 放り出される直前に、涙目で自分の持ち物を回収する青木。

「ない、アレが……」

「……あの〜もしかして……」

 再び青木のコートの中に潜って“身体検査”を続けている薪に、青木は手に持っていた端末を差し出した。

「コレですかね?」

「……っ、返せっ!」

 コートから顔を出した薪の蒼ざめた顔が、今度はカッと紅くなって、大きな手の中の“装置”を取り上げた。

「見たこと無いスマホだし、誰のかわからず困ってたんです。薪さんがご存知なら良かっ……」

「良くないっ!!」

 念のため装置の状態を確かめた薪は、今度はわなわなと震えだす。
 なんてことだ!
 プライベートな場でしかオンにしないはずの装置が、すでに起動しているなんて。
くそっ、誰がスイッチを?

「お前、電源に触れたのか?」

「いえ、何もしてません」

 なら、今井がやらかしたのか?いや小池のやつがわざと―――
 この瞬間、帰途にいる今井と小池の第六感が、電車の中でゾワッと凍りついたのは言うまでもない。

 包み込むように、薪の肩に大きなコートが掛けられる。

「……何だ」

「震えてますよ。寒いんじゃないですか?」

「……そうだな」

 表情を失ったまま、薪が画面から目を離さず答える。

「今すぐホテルに泊まるぞ」

「…………は?誰……がですか?」

「お前と僕の二人に決まってるだろ!早く押さえてこい!」

「は、はいっ!!」

 憧れの上司と二人きり、急遽ホテルに泊まることになった仕事納めの夜。
 恫喝に弾かれるように、すぐ傍にあるビジネスホテルに駆け込み宿泊の手配をする。
 正直、急展開は慣れっこだ。
 そしてご機嫌斜めの薪ほど恐ろしいものはなく、命が惜しければ従うに限る。
 
 でもこの胸のドキドキは、恐怖からくるものだけではないことにも、青木はうっすら気づいていた。
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