2059 青誕ss 奇跡のどƕぎつね
「あの……そういえば、どなたですか?」
「え?」
「いえ、お名前をお伺いしてなかったので」
「ああ」
きつね耳のかわいいコは目を丸くして、困ったように首を傾げる。
「そうだな……」
考え事をすると耳がぴくぴく動くのがまた、動物好きな俺の心をくすぐる。
「あれだ、お前の食べてるソレのテレビCMにでてくる動物……いるだろ?」
「どƕぎつね……」
「そう、それだ、うん」
いや、違うでしょう。
落ち着いてよく見ればシャツにネクタイにスラックス。ベルトも締め腕時計もつけた立派な社会人男性の身なりだ。絶対ただのどƕぎつねじゃない。それにこのコ、いやこの人、何処かで見たことあるような……
「勉強なら、僕に構わず続けていいぞ」
「……はい」
「というか、むしろ真面目にやれ」
「はい!」
俺は締切の差し迫った卒論を思い出して真顔に戻り、手を動かし始めた。
しかも自称どƕぎつねさんの、可愛い容姿から滲み出る凛とした天才カリスマオーラに気も引き締まる。おかげで卒論もすこぶる捗った。
「誕生日おめでとう」
「えっ?」
論文に集中していた俺が、ハッとパソコンの時計表示を見ると0時ちょうど。
日付が12/9に変わった瞬間だった。
「それを言いに来たんだ」
優しい笑みでその人は言った。
まるで俺のことを前から知っているかのように。
「あ……りがとうございます」
俺は満面の笑みで応えて、頭を下げる。
「二十、一か?」
「ええ、あ、はい」
「その髪型も、年相応でいいな。気に入ったぞ」
「はあ……」
この人、何でも知ってるなあ。
俺は散髪したてのツーブロックを照れ隠しに撫でながら、どƕぎつねさんのお気に召したのが妙に嬉しくて舞い上がった。
「一人で勉強とは、味気ない誕生日だが」
「そう見えますか? 実は俺、今までになく愉しいんですけど」
それに一人じゃない、あなたがいるし。と、キーボードを叩きディスプレイと睨めっこしたまま弾んだ声で俺が返すと、どƕぎつねさんは笑って肩を竦めた。
「卒論、と言ってたな。テーマは?」
「MRI捜査に関わる人権などの法整備全般について、です」
「ふーん……公開資料もごく僅かなのに、よくもそんなテーマを……」
「早急に必要なことだと思うんです。たしかに夢物語だとか鼻で嗤われたり、ゼミの先生も捜査の社会的影響を超える有効性に懐疑的だったりしますけど。おかしいですよね?もう実装されて飛躍的な成果もでてるのに……って、アレ?」
俺とテーブルの間に身を乗り出して、ノートPCを覗き込むどƕぎつねさん。
「ふーん……なかなかよく書けてるじゃないか」
「そう……です、か。ありがとうございます」
綺麗な色のサラサラの髪から覗くうなじが、細くて白くて、さらにはいい匂いに擽られてドキリとする。
「プライバシーの観点では第一に本人の同意が取れないのがネックだ。たとえば、ここ……」
「はい?」
背後から覗き込む俺の頬が、どƕぎつねさんのきつね耳を掠める。
「……ひゃっ」
「あ、すみません……」
垂れた耳を押さえて振り向く涙目に、俺は胸を撃ち抜かれて目眩する。長い睫毛が細かく瞬きし、なぜかこの人の頬も赤くなっていた。
「……ハ……くしゅん……」
俺を睨んでいた表情が頼りなくとろけたのが可愛くて、込み上げた保護欲にかられて、震える身体を思いきり抱きしめる。
「寒いですよね?エアコン壊れてて……」
俺は背中から抱きしめた身体を撫でながら、二人でこたつ布団を被ってさらさらの髪に鼻先を埋めた。
「どういう……つもりだ」
「……感謝……のつもりです。誕生日を祝ってもらえて……嬉しかったんです。だからせめて温めてさしあげれば、と……」
震えてる割に意外と体温は高いんだな。ふさふさの尻尾のせいかな。
それに、なんて抱き心地がよくて、どこもとてもいい匂いなんだ、この人……
ああ、しあわせだ。
しあわせすぎる。
「え?」
「いえ、お名前をお伺いしてなかったので」
「ああ」
きつね耳のかわいいコは目を丸くして、困ったように首を傾げる。
「そうだな……」
考え事をすると耳がぴくぴく動くのがまた、動物好きな俺の心をくすぐる。
「あれだ、お前の食べてるソレのテレビCMにでてくる動物……いるだろ?」
「どƕぎつね……」
「そう、それだ、うん」
いや、違うでしょう。
落ち着いてよく見ればシャツにネクタイにスラックス。ベルトも締め腕時計もつけた立派な社会人男性の身なりだ。絶対ただのどƕぎつねじゃない。それにこのコ、いやこの人、何処かで見たことあるような……
「勉強なら、僕に構わず続けていいぞ」
「……はい」
「というか、むしろ真面目にやれ」
「はい!」
俺は締切の差し迫った卒論を思い出して真顔に戻り、手を動かし始めた。
しかも自称どƕぎつねさんの、可愛い容姿から滲み出る凛とした天才カリスマオーラに気も引き締まる。おかげで卒論もすこぶる捗った。
「誕生日おめでとう」
「えっ?」
論文に集中していた俺が、ハッとパソコンの時計表示を見ると0時ちょうど。
日付が12/9に変わった瞬間だった。
「それを言いに来たんだ」
優しい笑みでその人は言った。
まるで俺のことを前から知っているかのように。
「あ……りがとうございます」
俺は満面の笑みで応えて、頭を下げる。
「二十、一か?」
「ええ、あ、はい」
「その髪型も、年相応でいいな。気に入ったぞ」
「はあ……」
この人、何でも知ってるなあ。
俺は散髪したてのツーブロックを照れ隠しに撫でながら、どƕぎつねさんのお気に召したのが妙に嬉しくて舞い上がった。
「一人で勉強とは、味気ない誕生日だが」
「そう見えますか? 実は俺、今までになく愉しいんですけど」
それに一人じゃない、あなたがいるし。と、キーボードを叩きディスプレイと睨めっこしたまま弾んだ声で俺が返すと、どƕぎつねさんは笑って肩を竦めた。
「卒論、と言ってたな。テーマは?」
「MRI捜査に関わる人権などの法整備全般について、です」
「ふーん……公開資料もごく僅かなのに、よくもそんなテーマを……」
「早急に必要なことだと思うんです。たしかに夢物語だとか鼻で嗤われたり、ゼミの先生も捜査の社会的影響を超える有効性に懐疑的だったりしますけど。おかしいですよね?もう実装されて飛躍的な成果もでてるのに……って、アレ?」
俺とテーブルの間に身を乗り出して、ノートPCを覗き込むどƕぎつねさん。
「ふーん……なかなかよく書けてるじゃないか」
「そう……です、か。ありがとうございます」
綺麗な色のサラサラの髪から覗くうなじが、細くて白くて、さらにはいい匂いに擽られてドキリとする。
「プライバシーの観点では第一に本人の同意が取れないのがネックだ。たとえば、ここ……」
「はい?」
背後から覗き込む俺の頬が、どƕぎつねさんのきつね耳を掠める。
「……ひゃっ」
「あ、すみません……」
垂れた耳を押さえて振り向く涙目に、俺は胸を撃ち抜かれて目眩する。長い睫毛が細かく瞬きし、なぜかこの人の頬も赤くなっていた。
「……ハ……くしゅん……」
俺を睨んでいた表情が頼りなくとろけたのが可愛くて、込み上げた保護欲にかられて、震える身体を思いきり抱きしめる。
「寒いですよね?エアコン壊れてて……」
俺は背中から抱きしめた身体を撫でながら、二人でこたつ布団を被ってさらさらの髪に鼻先を埋めた。
「どういう……つもりだ」
「……感謝……のつもりです。誕生日を祝ってもらえて……嬉しかったんです。だからせめて温めてさしあげれば、と……」
震えてる割に意外と体温は高いんだな。ふさふさの尻尾のせいかな。
それに、なんて抱き心地がよくて、どこもとてもいい匂いなんだ、この人……
ああ、しあわせだ。
しあわせすぎる。