2069 青誕 RING

「はあ?虫除け?」

 上り詰め、結合を解いたばかりの身体を重ね、入り交じる互いの鼓動に感覚を委ねていた薪は、眉根を寄せて顔だけ少し挙げる。
 
「ハイ。独身みたいに見えると色々と面倒があったりしますので……」

「……ああ」

 薪は大きなため息を吐いた。
この男の密かなモテぶりは、白石や舞から聴取済みだ。幸せになるチャンスをみすみす逃すなんて勿体ない奴と思いつつも、一途な愛情に満ちた真っ直ぐな眼差しの前で、諭す気はもはや失せている。

「しかし結婚を偽装してるとしても、不自然じゃないか? 父親一人が育児に奮闘していて、母親が影すら見えないなんて……」

 たまに使い走りさせられてる白石が奥方と思われていたりして……と、ふと想像してしまった薪は、一瞬頭に血が上り、俯いて唇を噛む。

「いえ、そこは全く大丈夫です。配偶者は東京で働く俺の上司・・・・・・・・・だって皆知ってますので」

「ばっ……!」

 こいつはやはりバカだ。なんのひねりもなくそのまま知らしめてどうする?
薪は今度は目眩を覚えて、こめかみを押さえた。

でも、まあいい。本題はそこじゃないのだ。

「……で?」

 薪は気を取り直して、青木の上にうつ伏せに寝そべった身体を重ねたまま這っていって顔を近づける。

僕の・・はどこにある?」

「……はい?」

「あるんだろう?僕らがはじめて性交した日付とI.Aの刻印入りのペアが」

「は、恥ずかしいのでそういうことズバリ当てないで下さい、てか性交って言い方っ」

 あまりに情緒のない物言いにため息を吐きながら、青木はこそこそとパンツを穿いてクローゼットを開け中の引き出しを探る。



「ん、これは僕がもらっておく」

 受け取った指輪の裏の日付とI.Aの刻印を確かめながら、薪がアッサリ言う。

「へっ!?受け取ってくれるんですか?」

 感激に目を潤ませる青木を横目に、薪はリアン・ドゥ・ショーメを自ら嵌めた薬指を天井にかざして見上げた。
 自分の指輪のサイズなんて考えたこともないが、捜査員の部下の洞察の賜物なのか、何故かぴったりなのは褒めてやろう。

「ああ。ちょうど僕も欲しかったんだ」

「えええっ!!」

「誤解するな。虫除けリングを、だ」

 薪は満更でもなさそうに口角を上げたいい顔をして、しれっと言った。
7/9ページ
スキ