2067 青誕 おうちデート
「………薪さん、泣いてます……?」
タガが外れようが結局青木は優しい。
激しい抽送も薪のからだが結合に馴染んでからだったし、背後から貫く体勢をとってみても………すぐに向き合うかたちに抱き直してしまう。何せ薪の涙に気づいたのだから、顔を見ず動くことなんてできるわけがないのだ。
「すみません俺、酷くしてますよね……」
「………違………っ、も……い…………からっ……」
ここまでくると、途切れがちな言葉より身体に訊く方が早い。それを察した青木の本能が、敏感に蠢く薪の締めつけに堪えながら律動を刻みつづけた。
「…………っ………はっ……」
「薪さん………」
きつく抱いた腕の中で薪の吐息が甘く色づいていく。
口元や顔を自らの手で隠しながら喘ぐ薪の美しく上気した肌に煽られて、二つの身体が追い詰め合い、やがてともに果てた。
思えば初めて結ばれて以来、互いの身体が得る快感にはまるで天井がない。
焦げつく感情とか疼く欲望とか、今まで縁のなかった感覚に苛まれても、それを全て薪への愛情として呑み込んでしまえるのが、青木の潔さでもあった。
「…………どうしたんです?」
「………え?」
「さっきの涙は……」
幸せの涙じゃないことは肌でわかってた。身体を結んでいるのに不安げにしがみつく薪の仕草や、ほどいた後すぐにそっぽを向く横顔はいつものことだが、今夜は特に翳りが濃くて、青木は心配だったのだ。
「正直わからない。人の誕生日なんて……どうして浮かれて祝えるのかって。死に一歩近づいていくようなものなのに……」
「なるほど。冥土の旅の一里塚、ですね」
縁起でもないと茶化すこともせずに、青木は薪の言葉を受け止め優しく微笑した。
「心配はご無用です。俺は当分死なないつもりなので」
「ああ、年齢的な順番じゃ僕がかなり先だろうしな」
天井を見ていた薪が、棘のある視線でベッドの隣の青木をちらりと見やる。
すると若いくせしてこの男は“パパ歴6年”の包容力を駆使して、だだをこねる年上の恋人を甘やかしはじめるのだ。
「まあ、少しだけならあなたが先というのもありかもしれません。俺は薪さんの最期の一秒までしっかり愛し抜きたいので……」
ついでに先般ソファーで封印された“告白”をさりげなく紐解きはじめるあたり、恋愛テクニックもなかなかのものだ。
「………それとも薪さんは、鈴木さんに早く会いたいですか?」
「馬鹿言え。僕が死んだって、お前や鈴木と同じ場所に行ける訳ないだろ」
青木の腕に包まれながら、薪は拗ねた子どもみたいに思い切り顔をそむける。
それが甘くて可愛らしい仕草に映ってしまうのは、青木の近視の裸眼のせいではないようだ。
「あなたがもしも地獄行きなら、当然俺もですよ。ここまで深入りしたら一心同体ですから……」
ああ………またこいつの術中に陥っている。
あわよくば同じ色に塗り潰されたいという薪の願望が、青木の言葉に掘り起こされてざわめくのが止まらない。
「なぁ、あおき………」
「はい?」
「今、僕から離れれば、お前だけは天国へ行けるだろうか」
独り言のような薪の言葉に、青木はデコルテを撫でていたキスを止め、顔を上げる。
メガネもなくて洗いざらしの髪の青木は、親友にも似てかつ狂おしいほど愛しい男だ。
「何言ってるんですか、薪さん。神様の目はそんな節穴じゃないですよ。大事なものを守るために鬼にもなれるあなたの優しさくらい、とっくにお見通しだと思います」
ほら、当たり前みたいにお前がそういうことを云うから―――薪はなんだか馬鹿馬鹿しくなって、考えるのをやめた。
「素直じゃないのが玉に瑕ですが、ほんとは誰より部下思いのあなたはきっと……」
「おい、部下ヅラはやめろ。お前にとっては“これ”も仕事なのか?」
「えっ、でも……」
「恋人、じゃないのか?」
「こ………っ!」
驚いて仰け反るように半身を起こした青木に、迫るように向き合った薪が、全身の重みを預けてくる。
「恋人って言いました?今……」
「言った。というかお前はそれ以外にこの関係を何だっていうんだ?セフレ?パワハラ?それとも……きょうはく………」
青木は薪の問いに答えるかわりに、抱きしめた身体をゆっくりベッドに横たえる。
こうなる兆しはみえていた。
恋人発言で絡みはじめた時にはもう薪の目はとろんとしていて……乗っかってきた温もりもいつもより熱くて、青木はそれが可愛いくて仕方なくて。
「………おやすみなさい、薪さん。ゆっくり休んでくださいね」
小さな寝息をききながら、長い睫毛の閉じた目蓋にそっとキスをした。
タガが外れようが結局青木は優しい。
激しい抽送も薪のからだが結合に馴染んでからだったし、背後から貫く体勢をとってみても………すぐに向き合うかたちに抱き直してしまう。何せ薪の涙に気づいたのだから、顔を見ず動くことなんてできるわけがないのだ。
「すみません俺、酷くしてますよね……」
「………違………っ、も……い…………からっ……」
ここまでくると、途切れがちな言葉より身体に訊く方が早い。それを察した青木の本能が、敏感に蠢く薪の締めつけに堪えながら律動を刻みつづけた。
「…………っ………はっ……」
「薪さん………」
きつく抱いた腕の中で薪の吐息が甘く色づいていく。
口元や顔を自らの手で隠しながら喘ぐ薪の美しく上気した肌に煽られて、二つの身体が追い詰め合い、やがてともに果てた。
思えば初めて結ばれて以来、互いの身体が得る快感にはまるで天井がない。
焦げつく感情とか疼く欲望とか、今まで縁のなかった感覚に苛まれても、それを全て薪への愛情として呑み込んでしまえるのが、青木の潔さでもあった。
「…………どうしたんです?」
「………え?」
「さっきの涙は……」
幸せの涙じゃないことは肌でわかってた。身体を結んでいるのに不安げにしがみつく薪の仕草や、ほどいた後すぐにそっぽを向く横顔はいつものことだが、今夜は特に翳りが濃くて、青木は心配だったのだ。
「正直わからない。人の誕生日なんて……どうして浮かれて祝えるのかって。死に一歩近づいていくようなものなのに……」
「なるほど。冥土の旅の一里塚、ですね」
縁起でもないと茶化すこともせずに、青木は薪の言葉を受け止め優しく微笑した。
「心配はご無用です。俺は当分死なないつもりなので」
「ああ、年齢的な順番じゃ僕がかなり先だろうしな」
天井を見ていた薪が、棘のある視線でベッドの隣の青木をちらりと見やる。
すると若いくせしてこの男は“パパ歴6年”の包容力を駆使して、だだをこねる年上の恋人を甘やかしはじめるのだ。
「まあ、少しだけならあなたが先というのもありかもしれません。俺は薪さんの最期の一秒までしっかり愛し抜きたいので……」
ついでに先般ソファーで封印された“告白”をさりげなく紐解きはじめるあたり、恋愛テクニックもなかなかのものだ。
「………それとも薪さんは、鈴木さんに早く会いたいですか?」
「馬鹿言え。僕が死んだって、お前や鈴木と同じ場所に行ける訳ないだろ」
青木の腕に包まれながら、薪は拗ねた子どもみたいに思い切り顔をそむける。
それが甘くて可愛らしい仕草に映ってしまうのは、青木の近視の裸眼のせいではないようだ。
「あなたがもしも地獄行きなら、当然俺もですよ。ここまで深入りしたら一心同体ですから……」
ああ………またこいつの術中に陥っている。
あわよくば同じ色に塗り潰されたいという薪の願望が、青木の言葉に掘り起こされてざわめくのが止まらない。
「なぁ、あおき………」
「はい?」
「今、僕から離れれば、お前だけは天国へ行けるだろうか」
独り言のような薪の言葉に、青木はデコルテを撫でていたキスを止め、顔を上げる。
メガネもなくて洗いざらしの髪の青木は、親友にも似てかつ狂おしいほど愛しい男だ。
「何言ってるんですか、薪さん。神様の目はそんな節穴じゃないですよ。大事なものを守るために鬼にもなれるあなたの優しさくらい、とっくにお見通しだと思います」
ほら、当たり前みたいにお前がそういうことを云うから―――薪はなんだか馬鹿馬鹿しくなって、考えるのをやめた。
「素直じゃないのが玉に瑕ですが、ほんとは誰より部下思いのあなたはきっと……」
「おい、部下ヅラはやめろ。お前にとっては“これ”も仕事なのか?」
「えっ、でも……」
「恋人、じゃないのか?」
「こ………っ!」
驚いて仰け反るように半身を起こした青木に、迫るように向き合った薪が、全身の重みを預けてくる。
「恋人って言いました?今……」
「言った。というかお前はそれ以外にこの関係を何だっていうんだ?セフレ?パワハラ?それとも……きょうはく………」
青木は薪の問いに答えるかわりに、抱きしめた身体をゆっくりベッドに横たえる。
こうなる兆しはみえていた。
恋人発言で絡みはじめた時にはもう薪の目はとろんとしていて……乗っかってきた温もりもいつもより熱くて、青木はそれが可愛いくて仕方なくて。
「………おやすみなさい、薪さん。ゆっくり休んでくださいね」
小さな寝息をききながら、長い睫毛の閉じた目蓋にそっとキスをした。