2067 青誕 おうちデート

「このシーズンに自分の誕生日があるのって、俺けっこう気に入ってるんですよね。師走の慌ただしい活気とか、町はクリスマス一色で……」

「ふ~ん………それはそれは、毎年さぞかし楽しい誕生日デートを経験してきたんだろうな」

「ハハ、違いますよ。薪さんといるから、そう思ったのかもしれません」

こんなに浮かれた気分はホントに初めてですので……と照れながら笑う、誠実を絵に描いたような若き室長。彼は今日の午前、第八管区に顔を出してから仕事も兼ねて東京へ来た。
アットホームな職場で部下たちから祝福されたうえ“仕事のことは気にせず休暇を楽しんできて”と口々に励まされて出てきたらしく、慕われぶりも健在のようだ。


「俺の郷土で鍋と言えば水炊きとかモツですが、今日は薪さんの好きそうなイメージで……」

デパ地下の肉屋のショーケースの前で腰を屈めた大男が、幸せそうに提案したのは“つみれ鍋”だった。
“鶏団子は舞も大好きなんですよ”と付け足された言葉に、子ども扱いされた感も否めないが、人混みの中だしおとなしく頷いておく。

「〆はやっぱ、薪さんは“これ”ですよね」

「お前、そろそろ“そこ”から離れてもいいんじゃないか?」

野菜と一緒に買い物カゴに入れられた“稲庭うどん”を見て、薪は苦笑する。
それに青木ときたら今日の主役のくせに、さっきから僕のことしか考えてないし……

「薪さん朝はコーヒー派でしたっけ?」

「うん、コーヒーはある。シリアルも開けてないのが家にあったな」

パンコーナーに目をやる青木の袖を小さく引いて薪が耳打ちする。

「そう……ですか、じゃあ牛乳を…」

そのしぐさと上目遣いの愛らしさの不意打ちに、青木は頬を染め声を詰まらせた。

「……コーヒーカップもありますかね?」

「カップは二つあるが……そうだ………」

「……どうしました?」

「ちょっと別の買い物を思い出した」

“家に無いもの”をふと思い出した薪が、青木にカートを任せて食品売場を離れた。
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