episode3 R18
「あれ?光くん……」
皆が寝静まった家で、風呂上がりの青木が、自室の襖をあけるとベッドに光がちょこんと腰かけている。
「もう10時過ぎてるよ。光くんも明日学校に送るから、早く寝なさい」
返事はない。代わりにベッドから立ち上がった光の軽い身体が青木の腰にもたれるように抱きついてくる。
「どうしたの?何か不安?」
「…………ここも鍵つきの部屋にしなくていいんですか?」
光は思いきり無垢な表情を作って青木を見上げる。
「じゃないと僕、こうして入ってきますよ。あのおまわりさんと一緒にいる時でも……」
「用があれば入るのは構わないよ。トビラを開ける前にひと声かけては欲しいけど」
おまわりさんとのこと、否定しないんだ。
悪びれない青木の態度に、苛立ちの火がつく。
「あの人と一緒に寝てるんですか?」
「まあ、近頃はそういう時もあるよ」
正直だな。残酷なほど。返事を受け取った瞬間その火はすぐに消えた。
“どうして?”なんて聞いたら“愛してるから”とか大真面目に返ってきそうで、バカバカしくて付き合ってられない。
「そういえばさ、次にお世話になる病院、条件のいいところがみつかって……」
「病院なんかいいんです!」
青木の厚意を遮る大きな声に、自分でも驚く。
だいすきな人が自分のためにしてくれた苦労を切り捨ててしまった罪悪感とともに、大幅にボリュームを下げた声で「 もうそんなに長くいないだろうし」と付け足した。そして蓋の壊れた小さな器からは、いびつな感情が溢れでてくる。
「だからお願い」
光は顔を埋めた青木の腹で呻くように呟いた。
「あのおまわりさんにここでしたこと、僕にもしてください」と。
「…………光くん」
青木の腕が光を抱き返し、動じない返事が帰ってくる。
「それは無理だ、俺は親だよ。君よりうんと年上の男が、10歳の……いや11歳の君とどうこうしようとしたら、全力で阻止する側だ」
「どうして?僕がいいって言ってるんだよ。あなたがすきなのに……」
「ありがとう。でもそういうのとは“すき”の意味が違うから」
アッサリとそう言い放ちながら、光を包む青木の腕は完全に舞を抱くのと同じ父親の腕だ。
ずるい。と、光は思う。
チョロいのは僕の方だ。
不本意なのに“これ”を思い切り心地よく感じてしまうなんて。
「そういうことしたい“好き”を、もっと未来に知るときがくるよ。そんな日まで君を育てるのが俺の務め。楽しみでもあるんだよ」
「楽しみ?」
「うん、楽しみ。病気と一緒でも君は大きくなれる。そのための条件に合う病院を今探してるんだ。そうやって君のためにすることの一つ一つが俺には楽しみなんだ」
「でも大変ですよね?あなたは警察のえらい人だしとても忙しいのに」
「うーん、大変、かな。でも大変と楽しいは両立するから大丈夫」
「…………」
光は青木の胴にしがみついていた腕をほどき、腕組みに変えて、難しい顔でじっと考える。
「あの、それなら……」
「何だい?」
光は青木の顔を真っ直ぐ見上げて、決意を込めた言葉を発する。
「僕の行きたい病院の条件を、もう一つだけ伝えていいですか?」
光が伝えた内容に、今度は青木も驚かずにはいられなかった。
皆が寝静まった家で、風呂上がりの青木が、自室の襖をあけるとベッドに光がちょこんと腰かけている。
「もう10時過ぎてるよ。光くんも明日学校に送るから、早く寝なさい」
返事はない。代わりにベッドから立ち上がった光の軽い身体が青木の腰にもたれるように抱きついてくる。
「どうしたの?何か不安?」
「…………ここも鍵つきの部屋にしなくていいんですか?」
光は思いきり無垢な表情を作って青木を見上げる。
「じゃないと僕、こうして入ってきますよ。あのおまわりさんと一緒にいる時でも……」
「用があれば入るのは構わないよ。トビラを開ける前にひと声かけては欲しいけど」
おまわりさんとのこと、否定しないんだ。
悪びれない青木の態度に、苛立ちの火がつく。
「あの人と一緒に寝てるんですか?」
「まあ、近頃はそういう時もあるよ」
正直だな。残酷なほど。返事を受け取った瞬間その火はすぐに消えた。
“どうして?”なんて聞いたら“愛してるから”とか大真面目に返ってきそうで、バカバカしくて付き合ってられない。
「そういえばさ、次にお世話になる病院、条件のいいところがみつかって……」
「病院なんかいいんです!」
青木の厚意を遮る大きな声に、自分でも驚く。
だいすきな人が自分のためにしてくれた苦労を切り捨ててしまった罪悪感とともに、大幅にボリュームを下げた声で「 もうそんなに長くいないだろうし」と付け足した。そして蓋の壊れた小さな器からは、いびつな感情が溢れでてくる。
「だからお願い」
光は顔を埋めた青木の腹で呻くように呟いた。
「あのおまわりさんにここでしたこと、僕にもしてください」と。
「…………光くん」
青木の腕が光を抱き返し、動じない返事が帰ってくる。
「それは無理だ、俺は親だよ。君よりうんと年上の男が、10歳の……いや11歳の君とどうこうしようとしたら、全力で阻止する側だ」
「どうして?僕がいいって言ってるんだよ。あなたがすきなのに……」
「ありがとう。でもそういうのとは“すき”の意味が違うから」
アッサリとそう言い放ちながら、光を包む青木の腕は完全に舞を抱くのと同じ父親の腕だ。
ずるい。と、光は思う。
チョロいのは僕の方だ。
不本意なのに“これ”を思い切り心地よく感じてしまうなんて。
「そういうことしたい“好き”を、もっと未来に知るときがくるよ。そんな日まで君を育てるのが俺の務め。楽しみでもあるんだよ」
「楽しみ?」
「うん、楽しみ。病気と一緒でも君は大きくなれる。そのための条件に合う病院を今探してるんだ。そうやって君のためにすることの一つ一つが俺には楽しみなんだ」
「でも大変ですよね?あなたは警察のえらい人だしとても忙しいのに」
「うーん、大変、かな。でも大変と楽しいは両立するから大丈夫」
「…………」
光は青木の胴にしがみついていた腕をほどき、腕組みに変えて、難しい顔でじっと考える。
「あの、それなら……」
「何だい?」
光は青木の顔を真っ直ぐ見上げて、決意を込めた言葉を発する。
「僕の行きたい病院の条件を、もう一つだけ伝えていいですか?」
光が伝えた内容に、今度は青木も驚かずにはいられなかった。