episode3 R18
「あれ?薪さん、飛行機とばないみたいですよ!」
翌朝、タクシー配車アプリを操作している薪の隣で、青木が素頓狂な声をあげる。
「はぁ?お前寝惚けてるのか?」
「いえ、だってホラ、“福岡発のLCC便爆破予告で空港閉鎖”って……」
「…………!!」
次の瞬間自分の画面にも出てきたニュースの通知に、薪はスマホを手にしたままがっくりと肩を落とした。
福岡~東京なら新幹線でも帰れる。
しかし仕事だってリモートでできるのだ。こんな時こそ使える手足が全国各地にあるのだから、無理して帰る必要もない。
多少のことなら所長代理をこなせる奴らが、八人もいる。それが今の第九なのだ。
「それ、お前が仕掛けたんじゃないだろうな」
「まさか!“ドイツから日本語で脅迫電話”らしいですよ。今どき電話使うなんて、特殊利用のアナログ回線とか巧く挟んで足つきにくくしてるんですよね、これ……」
下世話な推理はまるで無視して薪が訊く。
「今日お前は出勤するんだったな」
「え…………あ、はい」
「ならこの部屋を一日僕に貸せ」
「いいですが、怒鳴らないこと、あと物は壊さないでくださいね」
見通しの立たない要素は残さない薪らしい判断だ。が、本当の決め手はそこじゃないのかもしれない。
その証拠に金曜は一日青木の部屋で仕事をしつつ、合間には学校から帰ってきた舞と一緒に、フレンチトーストの仕込みもちゃんとこなした。
耳をとった食パンは、薪の譲れないレシピによって、一晩中卵液に浸されて。
土曜のブランチに登場したこのこだわりのフレンチトーストは、青木家の食卓を笑顔と幸せで満たした。
しかもパンが卵液をたっぷりと吸い込んでいる間じゅう、また薪の肌も青木の温もりと愛情に、いやというほど浸されていたのだ。
「マキちゃん、また帰ってきてね~」
その日の夕方、手を振る少女と大男にほのぼのと見送られるゲートで後ろ髪ひかれる自分とも、ようやく一旦決別をする。
翌朝、タクシー配車アプリを操作している薪の隣で、青木が素頓狂な声をあげる。
「はぁ?お前寝惚けてるのか?」
「いえ、だってホラ、“福岡発のLCC便爆破予告で空港閉鎖”って……」
「…………!!」
次の瞬間自分の画面にも出てきたニュースの通知に、薪はスマホを手にしたままがっくりと肩を落とした。
福岡~東京なら新幹線でも帰れる。
しかし仕事だってリモートでできるのだ。こんな時こそ使える手足が全国各地にあるのだから、無理して帰る必要もない。
多少のことなら所長代理をこなせる奴らが、八人もいる。それが今の第九なのだ。
「それ、お前が仕掛けたんじゃないだろうな」
「まさか!“ドイツから日本語で脅迫電話”らしいですよ。今どき電話使うなんて、特殊利用のアナログ回線とか巧く挟んで足つきにくくしてるんですよね、これ……」
下世話な推理はまるで無視して薪が訊く。
「今日お前は出勤するんだったな」
「え…………あ、はい」
「ならこの部屋を一日僕に貸せ」
「いいですが、怒鳴らないこと、あと物は壊さないでくださいね」
見通しの立たない要素は残さない薪らしい判断だ。が、本当の決め手はそこじゃないのかもしれない。
その証拠に金曜は一日青木の部屋で仕事をしつつ、合間には学校から帰ってきた舞と一緒に、フレンチトーストの仕込みもちゃんとこなした。
耳をとった食パンは、薪の譲れないレシピによって、一晩中卵液に浸されて。
土曜のブランチに登場したこのこだわりのフレンチトーストは、青木家の食卓を笑顔と幸せで満たした。
しかもパンが卵液をたっぷりと吸い込んでいる間じゅう、また薪の肌も青木の温もりと愛情に、いやというほど浸されていたのだ。
「マキちゃん、また帰ってきてね~」
その日の夕方、手を振る少女と大男にほのぼのと見送られるゲートで後ろ髪ひかれる自分とも、ようやく一旦決別をする。