episode5
「あっ、マキちゃんだ、お帰りなさぁい!」
5月のGW、青木家を訪ねた薪を見つけて舞が“久しぶり”と飛び跳ねて喜ぶ。
「だってマキちゃんぜんぜん帰ってきてくれないんだもん。舞、せっかく二年生になったのにさ」
「舞、ごめん。僕も会いたかったよ」
薪が3月の終わりまで第八管区と青木の家に頻繁に足を運んでいたのを考えると、たったひと月のブランク。だが青木家の一員に薪をカウントしている舞にとっては長い空白ということなのだろう。
薪さんに“会いたかった”なんて優しく言って貰えるなんて、舞だけの特権だろう。見守る青木は心温まりながらも、羨ましさに胸震わせる。
元々空いていた父の書斎は、鍵付きの薪の仕事部屋にプチリフォームされていた。このごろ薪がここへ来るのは青木が東京にいる時だけだったから、新しくなったこの部屋にいる薪を、青木が訪ねるのは初めてということになる。
ノックと同時にドアが開く。
青木が足を踏み入れたその部屋で、ベッドに座っていた薪が何気なく手を差しのべる。用事があって来たのだが、その手を取るのが先走って情事に雪崩れ込んだのも、まあ堪え性のない青木なら仕方のないことだ。
「おはようございます」
「っ……お前まだいたのか」
「まだ、って薪さん俺の上に乗っかってずっと気持ち良さそーに寝てたじゃないですか」
「っ、狭いからこういう風しか寝れないだろ!」
正直“寝た”というより上り詰めて“気を失った”感覚に近かった昨晩のことは、ぐちゃぐちゃでよく覚えていない。
少なくとも目覚めた朝は、大男とともにセミダブルサイズのベッドに横たわる状態がかなりキツいから“あっち行け”と蹴り出しておく。
「すみません、実はこれを」
「……?」
半裸の青木は飛ばされた勢いで机に移動し、昨晩置いておいた手紙を持ち、戻ってきて薪に渡した。
「光くんからです」
「…………」
受け取った薪はすぐさま封筒を開ける。
「舞と薪さん宛に一通ずつあります」
俺宛のは少し反抗期だったし残念ながら“ナシ”でしたけど、と苦笑まじりに言う青木はすっかり父の顔だ。
そこにはいつ書いたものなのか、随分しっかりした文字で中身がしたためられていた。
“薪剛様
いつからか僕は夢をみるようになりました。
あなたになって青木さんと愛し合いたい、二人への憧れのようなものです。
愛するってどういうことなのか、正直言ってよくわかりません。自分がしてほしいことを望むより、相手がしてほしいことを叶えたい気持ちが勝つことなのかも、と自分なりに理解しています。
でも好きな人に対してそう思うのはすごく難しいと思います。”
「偉いもんだ。青木のよりよく書けてる」
「いやもう、そういうイジりはやめてください」
薪は手紙を畳み、封筒に入れながら立ち上がって机の引き出しに仕舞う。そしてシーツに絡んだパジャマをもぎ取って身に付け、部屋の鍵とドアを開けた。
「あれ、どこ行くんです?」
「シャワーを借りる」
手紙の後半が脳裏に焼き付き、薪の鼓動を切なく高鳴らせていた。
“一つだけお願いがあります。
青木さんにあなたの想いを伝える時、ときどき僕のぶんも乗せて届けてもらえませんか?
青木さんはあなたの想いしかいらないだろうから、こっそりよろしくお願いしますね。
それではさようなら。感謝をこめて
須田光”
光の分なんて上乗せしようがないくらい、青木への思いは自分から溢れてしまってる。
でも、言葉にしたことがあるだろうか?
してない、いやできなかった。青木が見返りの言葉を求めてこなかったし、いつか伝えればいいと甘えてもいた。
そうだ、すっかり心地よく甘えて―――
5月のGW、青木家を訪ねた薪を見つけて舞が“久しぶり”と飛び跳ねて喜ぶ。
「だってマキちゃんぜんぜん帰ってきてくれないんだもん。舞、せっかく二年生になったのにさ」
「舞、ごめん。僕も会いたかったよ」
薪が3月の終わりまで第八管区と青木の家に頻繁に足を運んでいたのを考えると、たったひと月のブランク。だが青木家の一員に薪をカウントしている舞にとっては長い空白ということなのだろう。
薪さんに“会いたかった”なんて優しく言って貰えるなんて、舞だけの特権だろう。見守る青木は心温まりながらも、羨ましさに胸震わせる。
元々空いていた父の書斎は、鍵付きの薪の仕事部屋にプチリフォームされていた。このごろ薪がここへ来るのは青木が東京にいる時だけだったから、新しくなったこの部屋にいる薪を、青木が訪ねるのは初めてということになる。
ノックと同時にドアが開く。
青木が足を踏み入れたその部屋で、ベッドに座っていた薪が何気なく手を差しのべる。用事があって来たのだが、その手を取るのが先走って情事に雪崩れ込んだのも、まあ堪え性のない青木なら仕方のないことだ。
「おはようございます」
「っ……お前まだいたのか」
「まだ、って薪さん俺の上に乗っかってずっと気持ち良さそーに寝てたじゃないですか」
「っ、狭いからこういう風しか寝れないだろ!」
正直“寝た”というより上り詰めて“気を失った”感覚に近かった昨晩のことは、ぐちゃぐちゃでよく覚えていない。
少なくとも目覚めた朝は、大男とともにセミダブルサイズのベッドに横たわる状態がかなりキツいから“あっち行け”と蹴り出しておく。
「すみません、実はこれを」
「……?」
半裸の青木は飛ばされた勢いで机に移動し、昨晩置いておいた手紙を持ち、戻ってきて薪に渡した。
「光くんからです」
「…………」
受け取った薪はすぐさま封筒を開ける。
「舞と薪さん宛に一通ずつあります」
俺宛のは少し反抗期だったし残念ながら“ナシ”でしたけど、と苦笑まじりに言う青木はすっかり父の顔だ。
そこにはいつ書いたものなのか、随分しっかりした文字で中身がしたためられていた。
“薪剛様
いつからか僕は夢をみるようになりました。
あなたになって青木さんと愛し合いたい、二人への憧れのようなものです。
愛するってどういうことなのか、正直言ってよくわかりません。自分がしてほしいことを望むより、相手がしてほしいことを叶えたい気持ちが勝つことなのかも、と自分なりに理解しています。
でも好きな人に対してそう思うのはすごく難しいと思います。”
「偉いもんだ。青木のよりよく書けてる」
「いやもう、そういうイジりはやめてください」
薪は手紙を畳み、封筒に入れながら立ち上がって机の引き出しに仕舞う。そしてシーツに絡んだパジャマをもぎ取って身に付け、部屋の鍵とドアを開けた。
「あれ、どこ行くんです?」
「シャワーを借りる」
手紙の後半が脳裏に焼き付き、薪の鼓動を切なく高鳴らせていた。
“一つだけお願いがあります。
青木さんにあなたの想いを伝える時、ときどき僕のぶんも乗せて届けてもらえませんか?
青木さんはあなたの想いしかいらないだろうから、こっそりよろしくお願いしますね。
それではさようなら。感謝をこめて
須田光”
光の分なんて上乗せしようがないくらい、青木への思いは自分から溢れてしまってる。
でも、言葉にしたことがあるだろうか?
してない、いやできなかった。青木が見返りの言葉を求めてこなかったし、いつか伝えればいいと甘えてもいた。
そうだ、すっかり心地よく甘えて―――