episode4 R18
「いや~助かりましたよ。先方から急に呼ばれたんですけど、夏休み期間でヒコーキもいい時間が空いてないし、宿も無いしで……」
どうやらそれが、土曜の最終便で薪宅へ押し掛けてきた理由らしい。
“お邪魔します”と頭を下げ、靴を揃えて入ってくる二人を通したリビングの時計は、もう22時を回っていた。
「子どもの口に合うものはないが、水でも飲むか?」
カットフルーツの入ったガラス瓶がテーブルの中央に置かれる。
「おお、これはまた体によさそうなデトックスウォーターですね」
ソファーの脇にリュックを降ろした青木と目が合い微笑みかけられた薪は、慌てて視線をそらす。
「っ、何か文句あるのか」
「いえ……ただ、光くんが飛行機やタクシーのクーラーで結構寒がってたから、おフロも沸かしちゃっていいですかね」
「ああ、好きにしろ」
青木の後ろから嬉しそうに着いてきた光が、自分の小さな手荷物を行儀良くリュックの隣に置いた。
「あっ、青木さん!」
勝手知ったる足どりでバスルームに直行する青木の背中を、追った光が明るく呼びかける。
「お風呂用意されるなら、僕より青木さん先にどうぞ!お仕事終わって直行だったし、疲れてるでしょう?」
「いや、でも君の方が……」
「いえ、僕は大丈夫です。飛行機とかでずっと寝てたので」
「……じゃあ、先にシャワーを借りようかな」
「はい、今着替えを出しますね」
かいがいしく青木のリュックに駆け寄り中を開けようとしている光を、薪は呆気に取られた視線で追う。
「あ、いいよ、大丈夫。こっちにあるから」
全く青木も罪なやつだ。世話焼き女房気取りの光の前で、恋人宅の置きパジャマを堂々と取り出すとは…………そんなことがいちいち気になる自分にも呆れつつ、薪は肩で大きく息を吐いた。
「温かい飲み物でも拵えてやろうか」
「……あ、どうも、ありがとうございます」
バスルームに入った青木を見届け、ダイニングテーブルについた光に薪が声をかける。
贈答品のストックからグレープジュースを取り出した薪は、デトックスウォーターからひと掬いした果物とスパイス類を放り込み、煮立たせたあと弱火にかける。
15分ほど経ってでてきたホットジュースは、さしずめ子ども向けのグリューワインといったところだ。
“いただきます”と手を合わせてから、光は持ち手に指を添え、興味深げにカップを覗きこむ。
「いい匂い……」
そう呟く少年の大きな目が閉じられた。煮込んだあと取り除かれた果物の香りがしっかりと湯気のなかに残っていて……それだけで気分が上がった。
「熱いから少しずつ飲むんだぞ」
「……はぁい」
少し舌をつけると、濃厚な甘酸っぱさにちりばめられたいろんな風味が乗っかって口内に広がる。
シナモンスティックをスプーンがわりにクルクルかき混ぜ冷ましながら飲むと、少しずつ風味が変わるのがわかった。
子どもの味覚に合うのかは微妙な未知の飲み物を、嬉しそうに味わう光を薪は見つめる。
光の世界は未知でできていて、未知は希望を孕んでる。
百万人に一人の怪物になりかけた少年が、別のものになりたいと望めば叶うことは、ある意味自分自身で実証されているのだ。
どうやらそれが、土曜の最終便で薪宅へ押し掛けてきた理由らしい。
“お邪魔します”と頭を下げ、靴を揃えて入ってくる二人を通したリビングの時計は、もう22時を回っていた。
「子どもの口に合うものはないが、水でも飲むか?」
カットフルーツの入ったガラス瓶がテーブルの中央に置かれる。
「おお、これはまた体によさそうなデトックスウォーターですね」
ソファーの脇にリュックを降ろした青木と目が合い微笑みかけられた薪は、慌てて視線をそらす。
「っ、何か文句あるのか」
「いえ……ただ、光くんが飛行機やタクシーのクーラーで結構寒がってたから、おフロも沸かしちゃっていいですかね」
「ああ、好きにしろ」
青木の後ろから嬉しそうに着いてきた光が、自分の小さな手荷物を行儀良くリュックの隣に置いた。
「あっ、青木さん!」
勝手知ったる足どりでバスルームに直行する青木の背中を、追った光が明るく呼びかける。
「お風呂用意されるなら、僕より青木さん先にどうぞ!お仕事終わって直行だったし、疲れてるでしょう?」
「いや、でも君の方が……」
「いえ、僕は大丈夫です。飛行機とかでずっと寝てたので」
「……じゃあ、先にシャワーを借りようかな」
「はい、今着替えを出しますね」
かいがいしく青木のリュックに駆け寄り中を開けようとしている光を、薪は呆気に取られた視線で追う。
「あ、いいよ、大丈夫。こっちにあるから」
全く青木も罪なやつだ。世話焼き女房気取りの光の前で、恋人宅の置きパジャマを堂々と取り出すとは…………そんなことがいちいち気になる自分にも呆れつつ、薪は肩で大きく息を吐いた。
「温かい飲み物でも拵えてやろうか」
「……あ、どうも、ありがとうございます」
バスルームに入った青木を見届け、ダイニングテーブルについた光に薪が声をかける。
贈答品のストックからグレープジュースを取り出した薪は、デトックスウォーターからひと掬いした果物とスパイス類を放り込み、煮立たせたあと弱火にかける。
15分ほど経ってでてきたホットジュースは、さしずめ子ども向けのグリューワインといったところだ。
“いただきます”と手を合わせてから、光は持ち手に指を添え、興味深げにカップを覗きこむ。
「いい匂い……」
そう呟く少年の大きな目が閉じられた。煮込んだあと取り除かれた果物の香りがしっかりと湯気のなかに残っていて……それだけで気分が上がった。
「熱いから少しずつ飲むんだぞ」
「……はぁい」
少し舌をつけると、濃厚な甘酸っぱさにちりばめられたいろんな風味が乗っかって口内に広がる。
シナモンスティックをスプーンがわりにクルクルかき混ぜ冷ましながら飲むと、少しずつ風味が変わるのがわかった。
子どもの味覚に合うのかは微妙な未知の飲み物を、嬉しそうに味わう光を薪は見つめる。
光の世界は未知でできていて、未知は希望を孕んでる。
百万人に一人の怪物になりかけた少年が、別のものになりたいと望めば叶うことは、ある意味自分自身で実証されているのだ。