2066 海の別荘
百年の夢も覚めれば、時計の針では数十分でお釣りがくる儚さだ。
いつの間にか体勢が変わり、下肢に食い込む青木の量感に押し潰されていた薪は、その固い重みに思考停止のまま目を開く。
「おい………」
「わっ!」
「お前、この凶器は何の真似だ?」
「イテテ!やめてくださいって」
薪は自分の太腿を押してくる熱くて固い圧力を、膝蹴りで相手に押し返そうとする。
「酔い潰れてる割にコッチは随分盛んだな」
「だ、誰のせいだと思ってるんですか?」
「ん?わからないな。誰のせいなんだ?」
しまった。
寝起きかつ酔いの回った青木の頭から、一気に血の気が引いていく。
ひた隠しすべきだったのに、正面から啖呵をきってしまい、相手もガッチリ受け止めているのだから、もう後にも引けない。
「あ、あなた以外に、誰がいるんです」
「……それは、おかしくないか?」
居直る青木に対峙する薪は、固い表情で口の端をひきつらせた。
「“上司部下間の恋愛はあり得ない”と、昼間どの口が言ってたんだったか……」
「それは一般論です。あなたへの気持ちだけは俺……どうにもならないみたいです」
潮騒が微かに聴こえるほどシンとした室内。
青木のしんみりした告白に、ざわめく薪の心の波紋もすっかり凪いでしまう。と、同時に妙な方向にスイッチが切り替わる。
「ちょっ……薪さ……」
飛び退いて尻餅をついた青木を見上げる美しい瞳。
魅入られて動けない男の股の間に、薪が猫のように這入り込んでくる。
「や、め………」
下着の上からでもハッキリわかる昂りを撫で上げる薪のしなやか手が、布を湿らす先端を指の腹でなぞった。
「僕のせいなら、責任とってやる」
返事は無い。が、かわりに薪の手が触れている怒張が、ドクンとわかりやすく増幅する。
「…………駄目、ですよ。そんなこと……」
熱に浮かされ掠れた声が究極の痩せ我慢を吐き出し、大きな手が薪の手を包んで“凶器”から隔離した。
「バカだな無理をするな、体に悪いぞ」
「でも親切でしてもらうものじゃありませんし」
「…………」
“俺は本当にあなたを愛しているんです。お返事を伺う前に一線を越えられません”
薪の手に唇を押しつけて、青木は零れそうな思いを乗せた言葉を必死で喉元に押し留めた。
でもやはりそのまま済ませられる筈もない。
子どもみたいに従順に見上げてくる瞳を見返してしまったが最後、呑み込んだ言葉が口づけになって二つの唇を結びつけてしまう。
「…………ん……ふ……」
薄く開いて誘い込む、湿った花びらのように繊細な薪の唇と柔らかな舌が、酒臭い欲情混じりの男の口内に躊躇いなく滑り込み絡みつき蕩けあう。
「っ…………」
濃厚な交わりみたいなキスにまみれながら、もう綺麗事で取り繕うのは無理だと、青木の本能は悟ってる。
「薪さん、もう、俺っ………」
「っ、そこはダメだ馬鹿っ!」
いやまさか、そっち方面に逝かされるんですか?と思う暇さえなく、青木は顎への衝撃で脳天を揺らし気持ちよく昇天。
呆気ない今宵の幕切れを迎えたのだった。
いつの間にか体勢が変わり、下肢に食い込む青木の量感に押し潰されていた薪は、その固い重みに思考停止のまま目を開く。
「おい………」
「わっ!」
「お前、この凶器は何の真似だ?」
「イテテ!やめてくださいって」
薪は自分の太腿を押してくる熱くて固い圧力を、膝蹴りで相手に押し返そうとする。
「酔い潰れてる割にコッチは随分盛んだな」
「だ、誰のせいだと思ってるんですか?」
「ん?わからないな。誰のせいなんだ?」
しまった。
寝起きかつ酔いの回った青木の頭から、一気に血の気が引いていく。
ひた隠しすべきだったのに、正面から啖呵をきってしまい、相手もガッチリ受け止めているのだから、もう後にも引けない。
「あ、あなた以外に、誰がいるんです」
「……それは、おかしくないか?」
居直る青木に対峙する薪は、固い表情で口の端をひきつらせた。
「“上司部下間の恋愛はあり得ない”と、昼間どの口が言ってたんだったか……」
「それは一般論です。あなたへの気持ちだけは俺……どうにもならないみたいです」
潮騒が微かに聴こえるほどシンとした室内。
青木のしんみりした告白に、ざわめく薪の心の波紋もすっかり凪いでしまう。と、同時に妙な方向にスイッチが切り替わる。
「ちょっ……薪さ……」
飛び退いて尻餅をついた青木を見上げる美しい瞳。
魅入られて動けない男の股の間に、薪が猫のように這入り込んでくる。
「や、め………」
下着の上からでもハッキリわかる昂りを撫で上げる薪のしなやか手が、布を湿らす先端を指の腹でなぞった。
「僕のせいなら、責任とってやる」
返事は無い。が、かわりに薪の手が触れている怒張が、ドクンとわかりやすく増幅する。
「…………駄目、ですよ。そんなこと……」
熱に浮かされ掠れた声が究極の痩せ我慢を吐き出し、大きな手が薪の手を包んで“凶器”から隔離した。
「バカだな無理をするな、体に悪いぞ」
「でも親切でしてもらうものじゃありませんし」
「…………」
“俺は本当にあなたを愛しているんです。お返事を伺う前に一線を越えられません”
薪の手に唇を押しつけて、青木は零れそうな思いを乗せた言葉を必死で喉元に押し留めた。
でもやはりそのまま済ませられる筈もない。
子どもみたいに従順に見上げてくる瞳を見返してしまったが最後、呑み込んだ言葉が口づけになって二つの唇を結びつけてしまう。
「…………ん……ふ……」
薄く開いて誘い込む、湿った花びらのように繊細な薪の唇と柔らかな舌が、酒臭い欲情混じりの男の口内に躊躇いなく滑り込み絡みつき蕩けあう。
「っ…………」
濃厚な交わりみたいなキスにまみれながら、もう綺麗事で取り繕うのは無理だと、青木の本能は悟ってる。
「薪さん、もう、俺っ………」
「っ、そこはダメだ馬鹿っ!」
いやまさか、そっち方面に逝かされるんですか?と思う暇さえなく、青木は顎への衝撃で脳天を揺らし気持ちよく昇天。
呆気ない今宵の幕切れを迎えたのだった。