2066 海の別荘
「えっ……」
ここはどこだ?
杢目の綺麗な目透かし天井と、微かない草の香りと潮騒。
ああ、そうか。薪さんの……海の別荘だ。
そしてこの部屋は昼間の………書斎?って、あれ??
「薪……さん?」
一人でも布団からはみ出してる身体を起こそうとした肩先から下、左半分の重み。半信半疑で顔を向けた青木の鼻先を擽るサラサラの髪といい匂いに、心臓が早鐘を打ちはじめる。
「すみません、目の毒なので失礼します」
きっちり締まった帯を境に上も下も開き気味の薪の浴衣を手早く閉じながら、青木は自分の身体をそっとずらして、薪を布団に横たえた。
一晩中この身体と密着していたなんて、身に余る贅沢に思えた。
「……ん………」
「えっ、ちょっ……」
文机に置いてある眼鏡に手を伸ばした青木の視界の端で、薪の片膝がすうっと立ちあがる。
「ま、薪さん?」
ギョッとして振り返った眼前で、立膝からハラリとすべり落ちた浴衣の下から、真っ白な太股が現れて……青木のピントが 一気に“その付け根”へと絞られる。
「わーっ、だめですっ、だ、大事なところ見えちゃいますっ……ていうか何でノーパン!?」
慌てて浴衣を引っ張って薪の大事な部分を隠す青木の手を、寝返りする薪が内股に挟みこんだ。途端にアドレナリンが大放出、血流が特定部位に送り込まれて働き盛りの三十路男の下半身が、朝から興奮状態になる。じんわり汗ばんだ手の平でそろりと薪の内腿を撫でつけると、極め細やかな肌が粟立ってもじもじと身悶えるのが可愛すぎた。
「あ、お………き?」
長い睫毛の間から、寝起きの潤んだ瞳を凝らした薪が、両腕を差し伸べしなやかに巻きついてくる。
抱き返すとふわりと腕のなかに馴染む肢体を、もう一生離したくない衝動に駆られて、軋むほど腕に力がこもる。
「薪さん……」
目覚めたのに、まだ夢を見ていたい。
呼んだ名前を形どり半開きのままの唇が愛しくてたまらなくて、思わず顔を近づけた瞬間……その薪の唇は、触れる寸前に“あの文字”を形どる。
「す……」
昂る青木の熱が瞬時に凍りつき、ガックリと動きを止めて、薪から腕をほどいたその時だった。
「すいかを忘れてたっ!!」
「あイテっ!!!!」
飛び起きた薪の頭頂部が、昨日打撃された顎部を再び直撃し、悶絶した青木が抜け殻の布団に沈む。と、同時に涙で滲んだ眼鏡越しの視界が、シーツの上に落ちている“別素材で色も違う小さな布”を捉えたのだ。
「……えっ、何で」
「昨日ビーチで皆でスイカ割りしようとして……冷蔵庫に入れたまま忘れてたんだ」
「いえ……ああ、そうですか」
青木は頭を押さえながらふらりと立ち上がる。
“何で”と訊いたのはパンツのことだったのだが、手に取った瞬間記憶が一部戻ったため、そのことには言及せずに薪の話題に乗り換えたのだ。
この布を薪の滑らかな下腹部から一気に剥いだ時の興奮を反芻しながら……
「………わかりました。スイカ割りは朝食の後に皆でやりましょう。その前にこれ、パンツをちゃんと穿いてくださいね」
「は、お前が脱がせた癖に、偉そうに言うな」
渡された下着を取り上げて背を向けた薪が、書斎のドアの方を向いて放ったその言葉を、仕出し屋の到着を告げにそこまで来ていた波多野が聞きつけ、その後も青木の顎の青タンが見つかるなどして、ちょっとした騒ぎになったのは、また別の話だ。
ここはどこだ?
杢目の綺麗な目透かし天井と、微かない草の香りと潮騒。
ああ、そうか。薪さんの……海の別荘だ。
そしてこの部屋は昼間の………書斎?って、あれ??
「薪……さん?」
一人でも布団からはみ出してる身体を起こそうとした肩先から下、左半分の重み。半信半疑で顔を向けた青木の鼻先を擽るサラサラの髪といい匂いに、心臓が早鐘を打ちはじめる。
「すみません、目の毒なので失礼します」
きっちり締まった帯を境に上も下も開き気味の薪の浴衣を手早く閉じながら、青木は自分の身体をそっとずらして、薪を布団に横たえた。
一晩中この身体と密着していたなんて、身に余る贅沢に思えた。
「……ん………」
「えっ、ちょっ……」
文机に置いてある眼鏡に手を伸ばした青木の視界の端で、薪の片膝がすうっと立ちあがる。
「ま、薪さん?」
ギョッとして振り返った眼前で、立膝からハラリとすべり落ちた浴衣の下から、真っ白な太股が現れて……青木のピントが 一気に“その付け根”へと絞られる。
「わーっ、だめですっ、だ、大事なところ見えちゃいますっ……ていうか何でノーパン!?」
慌てて浴衣を引っ張って薪の大事な部分を隠す青木の手を、寝返りする薪が内股に挟みこんだ。途端にアドレナリンが大放出、血流が特定部位に送り込まれて働き盛りの三十路男の下半身が、朝から興奮状態になる。じんわり汗ばんだ手の平でそろりと薪の内腿を撫でつけると、極め細やかな肌が粟立ってもじもじと身悶えるのが可愛すぎた。
「あ、お………き?」
長い睫毛の間から、寝起きの潤んだ瞳を凝らした薪が、両腕を差し伸べしなやかに巻きついてくる。
抱き返すとふわりと腕のなかに馴染む肢体を、もう一生離したくない衝動に駆られて、軋むほど腕に力がこもる。
「薪さん……」
目覚めたのに、まだ夢を見ていたい。
呼んだ名前を形どり半開きのままの唇が愛しくてたまらなくて、思わず顔を近づけた瞬間……その薪の唇は、触れる寸前に“あの文字”を形どる。
「す……」
昂る青木の熱が瞬時に凍りつき、ガックリと動きを止めて、薪から腕をほどいたその時だった。
「すいかを忘れてたっ!!」
「あイテっ!!!!」
飛び起きた薪の頭頂部が、昨日打撃された顎部を再び直撃し、悶絶した青木が抜け殻の布団に沈む。と、同時に涙で滲んだ眼鏡越しの視界が、シーツの上に落ちている“別素材で色も違う小さな布”を捉えたのだ。
「……えっ、何で」
「昨日ビーチで皆でスイカ割りしようとして……冷蔵庫に入れたまま忘れてたんだ」
「いえ……ああ、そうですか」
青木は頭を押さえながらふらりと立ち上がる。
“何で”と訊いたのはパンツのことだったのだが、手に取った瞬間記憶が一部戻ったため、そのことには言及せずに薪の話題に乗り換えたのだ。
この布を薪の滑らかな下腹部から一気に剥いだ時の興奮を反芻しながら……
「………わかりました。スイカ割りは朝食の後に皆でやりましょう。その前にこれ、パンツをちゃんと穿いてくださいね」
「は、お前が脱がせた癖に、偉そうに言うな」
渡された下着を取り上げて背を向けた薪が、書斎のドアの方を向いて放ったその言葉を、仕出し屋の到着を告げにそこまで来ていた波多野が聞きつけ、その後も青木の顎の青タンが見つかるなどして、ちょっとした騒ぎになったのは、また別の話だ。
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