はじめてのお泊まり~青木家

「夜分に突然お邪魔して、お前の家は大丈夫なのか?」

雨の中走り出した車内で、薪がぽつりと訊ねる。

「ええ、今日は母も舞も離れにいますので。時間もそれほど遅くないですし、お気遣いは無用ですよ」

離れにいる二人は、先週立て続けに熱を出し、自主隔離中の模様で。このところ青木が在宅勤務がちだったのには薪も気づいていたが、家族の看病を兼ねていたことは初めて知る実情だった。
家のことに手をとられていようと、仕事はきちんと捗っていたから。

「大変だったな。それでお母さんも舞ちゃんも、もういいのか?」

「ええ。舞も今日から学校に行きましたし、もう隔離の必要もないんですけどね」

「そうか、ならよかった」

返した言葉とは裏腹に、なぜか増幅する薪の胸騒ぎ。

それは青木の実家に対する遠慮でも、雨風の強まりつつある天候のせいでもない。

寿司屋で青木の食が異常に細かったこととか、ここへきて何となく顔色が冴えない気がするのが、何かの予兆に思えて………
その悪い予感は的中した。

自宅のガレージに停まった車。

先に降り立ち傘を開いて、薪のいる側の車のドアへと回り込んだ青木の大きな体が、ノブに手をかけたまま砂利の上にガクリと片膝をついたきり、動かなくなったのだ。
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