はじめてのお泊まり~青木家

「……!」
博多のご当地回転寿司を初めて口にした薪は、ひそかに目を見張る。
白身や青魚中心のネタを握った気取らない素朴な味と新鮮な磯の香りは、江戸前の繊細な技巧とはまた違う美味だ。

そもそも“回る寿司屋”自体いつ振りだろう?
おそらく前回食べたのは自分が大学生、つまり青木がランドセルを背負ってた頃じゃないだろうか。

「旨いでしょう?」

「………あぁ、うん」

一瞬―――カウンターの隣で得意げに笑む男の顔が、自分の聖域に今も棲む無二の親友の面影と重なる。

「レーン見つめちゃダメですよ。目回りますから」

「見てない。子供扱いするな」

憮然と返す薪の表情の奥深くに、甘酸っぱく閃いた感傷の色。それさえ愛しい青木は目を細める。


「お品書き、ご覧になりますか?」

「いや、お前のお勧めでいい」

注文用タブレットを操る大きな手を見つめる薪のどこか愉しげな声に、青木の胸はデート気分に踊った。

が、その割に食が進まないのは何故だろう?

胸一杯の薪への気持ちが空腹感を埋めつくすせいなのか?

いつもと違うぼやけた味を口にするたび、青木は首を傾げた。


「何だ、もう食べないのか?」

「……ええ、まあ」

薪に驚かれるのも無理はないと思う。
食の細い薪の隣に重ねた皿の高さが、自分もさほど変わらないのだから。

昼食をガッツリ食べ過ぎたせいか?と思い返しながら、青木は「おあいそお願いします」と店員に手を挙げた。
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