はじめてのお泊まり~青木家

曇天に融ける灰色の丘を上るなだらかな坂道。
足元の花壇に咲く花が強風に震える中をひとり、正装で歩みを進めるのは薪だ。

午前中、第三管区で仕事を片付けたのちに飛びたった空の便は、接近する台風の影響で、次の九州方面から軒並み欠航となった。
自分は唯心論者ではないが、今回ばかりは自分の母の一周忌の墓参を自分に託した桜木の祈りが通じたのではないか、と思えてしまう。

背負った思いを胸に、薪は墓前で静かに手を合わせた。

グレイ一色の丘から一段と強い風が海へと向かう、もう夕暮れ時だった。


ポツ、ポツ、と頬や目蓋にかかる小さな水滴に気付いて、薪はさっき来た坂道を戻る足を早める。

下った先にある空っぽの駐車場。

「………!」

薪はそこに停まる一台の車を遠目に見つけ、そこから降りてきた人物をみとめるやいなや―――顔色を変えて、疾風の如く駆け出した。
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