はじめての夜~福岡泊
「何かベッドが……やけに目立つな……」
「ええ、寝心地良さそうですね。薪さんお風呂、先どうぞ」
ライトアップされた大きなダブルベッドを物珍しげに凝視する薪をいなし、青木は演出過剰なライトを間引いて、バスルームのドアを指し示す。
「こういう場所に来るの……慣れてるのか?」
「いいえ、初めてですよ」
「ふーん……」
青木のあっけらかんとした返事を背に、薪も素直にバスルームに入って服を脱ぐ。
いわゆるこういう場所は、薪も利用したことはないが、どういう目的で使われるホテルなのかは、さすがに知っている。
でもあの善良な部下は、単に上司に眠る場所を与えるために連れて来ただけだろう。
カランをひねり、熱いシャワーで肌に籠る熱を洗い流そうと試みる。
どうせアイツは何も考えちゃいないのだから、僕もいつも通り振る舞うだけだ、と自分に言い聞かせながら。
「青木……?」
少し大きく見えるバスローブを羽織った薪が、髪をタオルで拭きながらベッドに近づく。
大きなベッドに伸び伸びと横たわり静かな寝息をたててる大男に、薪は笑むように目尻を下げて寄り添い、息がかかるほどの距離で寝顔を覗き込んだ。
ただでさえ激務な日常に加え、このところは桜木周辺のあれこれで薪の手足となって動いてくれていたのだから、秒で寝落ちも無理はない。
それに、もうこいつは“手足以上”だ。頭脳も精神も、何もかもが驚くほどに伸びている―――
「…………」
善良の塊のような寝顔にうっとり引き込まれている薪は、自分の頬が弛んでることにさえ気づいてない。
このまま添い寝も………アリだな。
そう思った瞬間、青木の目がぱちっと開いた。
「え……ああ、幸せです。目覚めたら薪さんがいるなんて………もぉ最高っ……」
「馬鹿。次、お前の番だぞ」
「あ、ハイ」
薪がバスルームを視線で指すと、青木は自分に凭れかかっていた華奢な身体ごと上体を持ち上げる。
「……薪さん、お疲れでしょうから先寝ててくださいね」
とろかすような優しい目が薪を見つめ、大きな手が控えめに髪にそっと触れた。
薪は僅かに頷いた。
「お前も………バスタブに湯を張っといたから、ゆっくりしてこい」
「ええっ!薪さんが?」
大きな身体がものすごい速さで飛んでいき、バスルームから大きな声が響いた。
「あああマジですか、俺のためにお湯張りとか……すみません!ありがたく、ゆっくり浸からせて戴きますっっ」
全く、いちいち大袈裟に感動して煩い奴だ。
思わず浮かべた温かい苦笑。
でもそれも一人になった途端に引いていく。
“薪さん、お疲れでしょうから先寝ててくださいね”
青木の思いやりが、今は心を痛ませた。
何て顔してるんだ僕は………
薪はベッドサイドの壁に埋め込まれたミラーに映る物欲しげな自分を自嘲気味に眺め、ヘッドボードに虚ろな視線を移す。
洒落たケースのティッシュと、備え付けられた二個のコンドーム。その隣のスイッチが気になって指で触れると、室内照明のバリエーションがいくつか変わり、最後に部屋の照明が落ちて、バスルームが透けて見えた。
どういう仕掛けなんだ?マジックミラーか?
次の瞬間薪はハッと胸を突かれて、透けたミラーの向こうに釘付けになった。
のんびり湯船に浸かっているはずの青木の、見たこともない思い詰めた横顔が、そこにあったから………
「ええ、寝心地良さそうですね。薪さんお風呂、先どうぞ」
ライトアップされた大きなダブルベッドを物珍しげに凝視する薪をいなし、青木は演出過剰なライトを間引いて、バスルームのドアを指し示す。
「こういう場所に来るの……慣れてるのか?」
「いいえ、初めてですよ」
「ふーん……」
青木のあっけらかんとした返事を背に、薪も素直にバスルームに入って服を脱ぐ。
いわゆるこういう場所は、薪も利用したことはないが、どういう目的で使われるホテルなのかは、さすがに知っている。
でもあの善良な部下は、単に上司に眠る場所を与えるために連れて来ただけだろう。
カランをひねり、熱いシャワーで肌に籠る熱を洗い流そうと試みる。
どうせアイツは何も考えちゃいないのだから、僕もいつも通り振る舞うだけだ、と自分に言い聞かせながら。
「青木……?」
少し大きく見えるバスローブを羽織った薪が、髪をタオルで拭きながらベッドに近づく。
大きなベッドに伸び伸びと横たわり静かな寝息をたててる大男に、薪は笑むように目尻を下げて寄り添い、息がかかるほどの距離で寝顔を覗き込んだ。
ただでさえ激務な日常に加え、このところは桜木周辺のあれこれで薪の手足となって動いてくれていたのだから、秒で寝落ちも無理はない。
それに、もうこいつは“手足以上”だ。頭脳も精神も、何もかもが驚くほどに伸びている―――
「…………」
善良の塊のような寝顔にうっとり引き込まれている薪は、自分の頬が弛んでることにさえ気づいてない。
このまま添い寝も………アリだな。
そう思った瞬間、青木の目がぱちっと開いた。
「え……ああ、幸せです。目覚めたら薪さんがいるなんて………もぉ最高っ……」
「馬鹿。次、お前の番だぞ」
「あ、ハイ」
薪がバスルームを視線で指すと、青木は自分に凭れかかっていた華奢な身体ごと上体を持ち上げる。
「……薪さん、お疲れでしょうから先寝ててくださいね」
とろかすような優しい目が薪を見つめ、大きな手が控えめに髪にそっと触れた。
薪は僅かに頷いた。
「お前も………バスタブに湯を張っといたから、ゆっくりしてこい」
「ええっ!薪さんが?」
大きな身体がものすごい速さで飛んでいき、バスルームから大きな声が響いた。
「あああマジですか、俺のためにお湯張りとか……すみません!ありがたく、ゆっくり浸からせて戴きますっっ」
全く、いちいち大袈裟に感動して煩い奴だ。
思わず浮かべた温かい苦笑。
でもそれも一人になった途端に引いていく。
“薪さん、お疲れでしょうから先寝ててくださいね”
青木の思いやりが、今は心を痛ませた。
何て顔してるんだ僕は………
薪はベッドサイドの壁に埋め込まれたミラーに映る物欲しげな自分を自嘲気味に眺め、ヘッドボードに虚ろな視線を移す。
洒落たケースのティッシュと、備え付けられた二個のコンドーム。その隣のスイッチが気になって指で触れると、室内照明のバリエーションがいくつか変わり、最後に部屋の照明が落ちて、バスルームが透けて見えた。
どういう仕掛けなんだ?マジックミラーか?
次の瞬間薪はハッと胸を突かれて、透けたミラーの向こうに釘付けになった。
のんびり湯船に浸かっているはずの青木の、見たこともない思い詰めた横顔が、そこにあったから………