はじめてのお泊まり~青木家
薪がキーボードを高速で叩く音が、昼下がりの部屋に流れている。
マウスのスクロール、ボールペンをカチカチ鳴らす音や、web会議画面越しの容赦ない口撃………耳だけで仕事を気にしながらも、青木は言いつけ通りベッドで大人しく過ごした。
昼過ぎには、母が差し入れてくれた食事を、それぞれが同じ部屋で、めいめいに摂って。
その後は集中力の高まりのせいか、薪はもう青木がベッドを離れても声をかけるのはおろか、視線を寄越すこともない。
「コーヒーをどうぞ」
「ありがとう」
PC画面を目で追いつつ、薪の手がすぐにマグをとった。
「ゆっくり休めたか?」
「ええ。3日分は爆睡したと思います」
「フッ、よく眠れるのは若い証拠だ」
皮肉ともつかぬ呟きの傍らで、青木は画面に横並びになったword文書とMRI映像を見比べる。
「これは報告書ですか?」
「ああ、山城から今届いたんだ」
「……ちょっと、今のとこ5秒戻してもらえますか?」
「ああ、お前もここが気になったのか」
言い終わる前にすでに表示されていたその画面を、二人は食い入るように覗きこんだ。
どうやら、通常運転に戻れたようだ。
「帰りの便、押さえましょうか?」
報告書の件が終わり、PCをシャットダウンする薪を見て、青木が声をかける。
「そうだな、夕方のを頼む」
「18時の便が取れます。空港までお送りしますよ」
「いや、送迎はタクシーでいい」
「えっ、でも……」
スマホ片手に振り向く青木に、薪が苛ついたような棘のある視線を寄越す。
「それより僕がここを出るまでの間、お前にはやることがあるだろう?」
「えっ、やること……ですか………って、わっ!」
「わからないのか?」
不意に胸ぐらを掴まれた青木が前屈みにつんのめり、二人の会話が中断する。
薪の唇が青木の口を塞いだせいだ。
「…………っ……はぁ……」
薄々気づいていたが、殆どない恋愛経験の割に、薪のキスは上手い。
求めるように絡む繊細な舌が、青木の隅々の感触を貪り取ろうとする。体の触れてない部分の卑猥な反応や、疚しい心の動きまですべて探り当てられそうな勢いで―――
「………あっ、そういやタクシー呼んどかないと」
唇を離した青木が、手にしたままの携帯を握り直して電話を掛ける。
全くどうしてこの人は……エンドラインを引いた後で情事に誘い込むのか。
飛び立つ時刻から逆算すると、ここで抱き合えるのはあと3時間弱。どこまで進んでいいんだろう?
互いの肌は火照り、絡めあう舌が溶けそうなほど口内も熱い。ということは薪の体内に疼く熱も相当のものだろうに。
「手配は済んだか?」
「……あ、はい。って、ぅわっ……」
スマホと眼鏡を取り上げながら追い詰めてくる薪の迫力に、後退りした青木はベッドに尻餅をつく。
「ま、薪さん落ち着いて……」
「お前の熱を下げたのは僕だ。今度はお前が……することはわかってるな?」
片手ネクタイをほどきながら、青木を跨いで乗り上がる薪は、耳元に寄せた唇から妖艶に“命令”を吹きかけた。
「僕の熱を下げろ。お前にしか出来ないことだ」
マウスのスクロール、ボールペンをカチカチ鳴らす音や、web会議画面越しの容赦ない口撃………耳だけで仕事を気にしながらも、青木は言いつけ通りベッドで大人しく過ごした。
昼過ぎには、母が差し入れてくれた食事を、それぞれが同じ部屋で、めいめいに摂って。
その後は集中力の高まりのせいか、薪はもう青木がベッドを離れても声をかけるのはおろか、視線を寄越すこともない。
「コーヒーをどうぞ」
「ありがとう」
PC画面を目で追いつつ、薪の手がすぐにマグをとった。
「ゆっくり休めたか?」
「ええ。3日分は爆睡したと思います」
「フッ、よく眠れるのは若い証拠だ」
皮肉ともつかぬ呟きの傍らで、青木は画面に横並びになったword文書とMRI映像を見比べる。
「これは報告書ですか?」
「ああ、山城から今届いたんだ」
「……ちょっと、今のとこ5秒戻してもらえますか?」
「ああ、お前もここが気になったのか」
言い終わる前にすでに表示されていたその画面を、二人は食い入るように覗きこんだ。
どうやら、通常運転に戻れたようだ。
「帰りの便、押さえましょうか?」
報告書の件が終わり、PCをシャットダウンする薪を見て、青木が声をかける。
「そうだな、夕方のを頼む」
「18時の便が取れます。空港までお送りしますよ」
「いや、送迎はタクシーでいい」
「えっ、でも……」
スマホ片手に振り向く青木に、薪が苛ついたような棘のある視線を寄越す。
「それより僕がここを出るまでの間、お前にはやることがあるだろう?」
「えっ、やること……ですか………って、わっ!」
「わからないのか?」
不意に胸ぐらを掴まれた青木が前屈みにつんのめり、二人の会話が中断する。
薪の唇が青木の口を塞いだせいだ。
「…………っ……はぁ……」
薄々気づいていたが、殆どない恋愛経験の割に、薪のキスは上手い。
求めるように絡む繊細な舌が、青木の隅々の感触を貪り取ろうとする。体の触れてない部分の卑猥な反応や、疚しい心の動きまですべて探り当てられそうな勢いで―――
「………あっ、そういやタクシー呼んどかないと」
唇を離した青木が、手にしたままの携帯を握り直して電話を掛ける。
全くどうしてこの人は……エンドラインを引いた後で情事に誘い込むのか。
飛び立つ時刻から逆算すると、ここで抱き合えるのはあと3時間弱。どこまで進んでいいんだろう?
互いの肌は火照り、絡めあう舌が溶けそうなほど口内も熱い。ということは薪の体内に疼く熱も相当のものだろうに。
「手配は済んだか?」
「……あ、はい。って、ぅわっ……」
スマホと眼鏡を取り上げながら追い詰めてくる薪の迫力に、後退りした青木はベッドに尻餅をつく。
「ま、薪さん落ち着いて……」
「お前の熱を下げたのは僕だ。今度はお前が……することはわかってるな?」
片手ネクタイをほどきながら、青木を跨いで乗り上がる薪は、耳元に寄せた唇から妖艶に“命令”を吹きかけた。
「僕の熱を下げろ。お前にしか出来ないことだ」