はじめての夜~福岡泊

「…………もう…………い……から早く…」

あまりに丁寧に解す前戯に、指だけで逝きそうになった薪は、縋るように青木にしがみついた。

「ああ、待ってください。ゴム……」

挿れたい一心で、青木が手探りで避妊具を掴む。
上体を起こし抱き合ったままもどかしく装着を見守っていた薪は、つけたと同時にその上に腰を落としていった。


「………は……ぅっ…………………」

「っ………辛くないですか?」

「だい………じょ……ぶ…………」

想像以上の質量を薪の身体は不思議と受け入れて、開かれる圧迫はすぐに甘い疼きに変わる。

「………あおき……っ」

「…………っ………薪……さん……」

身体を繋いだまま、引き合うように唇が重なった。

「ヤバい。俺………最高に気持ちいいです」

興奮気味の青木のキスに応えてやりたくても、蕩けて痺れた薪の身体はもう指先ひとつ動かない。

「動いて……いいですか?」

「…………いぃ………から……」

蕩けた薪が上にいる青木の身体は、微動しかできない。それでも下から突かれる振動がもたらす体の奥の快感は、薪を溺れさせるには充分過ぎる刺激だった。

「体勢………変えますよ」

おまえのすきにしろ………と、ろれつの回らない声が耳もとに届いた瞬間、薪の中の青木がさらに増幅し、慄く身体を内と外から拘束したままシーツに沈み込む。

青木の身体の重みと、体内で混じる熱に、脳まで撹拌されながら、なんども繰り返される抽送を身体に刻まれて、おちていく、はじめての感覚―――

「く…………っ…………はぁっ………」

内側から侵食する快楽に崩されて、もう自分自身が保てない。

これが、セックス?今までの自分が知っている行為とは全然違う。こんなこと覚えてしまったら、生まれ変わらされてしまう。もう後戻りできない気がして、薪の身体がゾクゾクと震えた。

「………あおき………さき……いけ……」

青木の身体にしがみつき、次々と襲いくる快楽の波に呑まれそうになるのを耐えながら、薄れゆく意識のなかで薪は懇願していた。

「…………え………でも………」

「たのむ…………しんぱいだから………」

「心配………ですか?」

青木が余裕ない苦笑をこぼし、律動が激しさを増す。
薪が何を心配してるのかわからないが、本当はまだずっと愛しい身体に自分を埋めて夢のような感覚を味わっていたかった。
何より、抱かれるこの人は凄く綺麗だ。
蕩けた表情も上気した肌も、疼くように絡みつく内側も、しぐさも声も、すべてが愛しくて全部が心地好いこの身体を繋いだ熱を刻みあい溺れていたかった。
でもそれを阻むように青木を締め上げ搾り取ろうとする薪の身体に勝てるはずもない。

「………あおき………」

耳元で悦がる吐息のような声に呼ばれ、しなやかな両脚に絡まれた青木の腰が、本能剥き出しの動きで深いところを抉ってドクンと爆ぜた。
その震動を受け止めた薪の身体も、密着するふたりの肌の隙間で白濁を散らす――――



「………何が “違う”んですか?」

「………え……何…………?」

満たされた先には眠りの淵が口をあけて待っている。
なすすべなく引き込まれていく薪が薄らいだ意識の中で聞き返すと、結合の最中に薪が何度も“こんなの違う”と譫言をこぼしていたのだと、青木は屈託なく話した。

「まあ、俺は光栄ですけど。似てると言われ続けてきましたから、たまには “違う”方がいいかも……」


――――馬鹿。

たぶんこいつは鈴木を頭に浮かべているのだろうが、それは違う、と薪は夢うつつでひとりごちる。

鈴木のことは永遠に“大事”だ。
肉慾の疚しさとはまた別の、ある意味神聖な、誰にも触れさせたくない域に有る。
“違う”とは、青木を想い、込み上げる疚しさを別の手段で吐きだしていた頃の行為と比べて口をついてでた。
でもそれだって何の弁解にもならないから、伝えるのはやめておく。

それよりもう薪の意識はとっくに、充足の眠りの淵に沈みきっているのだから。
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