はじめてのお泊まり~青木家
あ……れ……薪さん?いやあれは天使か。
ってことは、ここは天国?
だとしたらやっぱり、天使さまって薪さんソックリなんだなあ………
「青木、大丈夫か」
「エッ、天使さまがどうして俺のなまえを……」
どうせ意識が朦朧としているのだろう。
薪は意味不明の譫言を無視して大男のスーツを脱がせていく。
「寝間着、ここにあるのでいいな?」
「……ええ……っと………」
ぼやけた裸眼の視界に、かいがいしく世話してくれる天使のような鬼上司の顔と、見慣れた天井がごちゃ混ぜに揺れている。
とにかく身体が重くて熱くて怠くて。額に当てられた手のひらと、着せられたパジャマだけが、ひんやりと心地いい……
「お前、庭先で倒れたんだぞ。熱もあるし」
「え、庭?………じゃあなんで俺今ベッド?」
「僕が運んだ。自分より図体のでかい人間の介護は、子どもの頃から慣れてるからな」
「そ……うですか」
さらりと零れる薪の身の上話。青木はそれを朦朧とした意識の中で必死に掴み取る。
「すみません、翌朝までには必ず治します。こう見えて俺、学生時代は皆勤賞頂いてますので……」
「もう喋るな。僕がついているから、何も気にせず休めばいい」
薪が氷水で冷やしたタオルを額にあてがうと、青木は素直に目を閉じた。
地味顔に分類するにはあまりに勿体ない(と個人的に常々思う)青木の整った寝顔を眺めながら、薪は考える。
高齢の母と幼い子どもとの三人暮らしのなかで、青木は常にたった一本の支柱だ。
職場でも長を務めるこいつが寄りかかれる相手は、公私ともに僕一人なのかもしれない、と。
「………おそらく看病疲れだろう。僕の父も、僕が熱を出すと治りがけに決まって倒れていた記憶がある」
こんなときに限ってまた零れだす薪の思い出話を、青木は薄らぐ意識に刻み込んだ。
両親の深い愛情のもとで育った少年と、大きな図体の誰かの介護に慣れた日常が、どうやって結びつくのか。いつか口走っていた“人殺しの実親”とは誰のことなのかも………謎は増すばかりだ。
薪のことをもっと知りたい。
でも今は、受けとめて抱き締めたい思いが空を切り、重苦しい眠りのなかに体ごと不甲斐なく沈んでいくばかりだ。
ってことは、ここは天国?
だとしたらやっぱり、天使さまって薪さんソックリなんだなあ………
「青木、大丈夫か」
「エッ、天使さまがどうして俺のなまえを……」
どうせ意識が朦朧としているのだろう。
薪は意味不明の譫言を無視して大男のスーツを脱がせていく。
「寝間着、ここにあるのでいいな?」
「……ええ……っと………」
ぼやけた裸眼の視界に、かいがいしく世話してくれる天使のような鬼上司の顔と、見慣れた天井がごちゃ混ぜに揺れている。
とにかく身体が重くて熱くて怠くて。額に当てられた手のひらと、着せられたパジャマだけが、ひんやりと心地いい……
「お前、庭先で倒れたんだぞ。熱もあるし」
「え、庭?………じゃあなんで俺今ベッド?」
「僕が運んだ。自分より図体のでかい人間の介護は、子どもの頃から慣れてるからな」
「そ……うですか」
さらりと零れる薪の身の上話。青木はそれを朦朧とした意識の中で必死に掴み取る。
「すみません、翌朝までには必ず治します。こう見えて俺、学生時代は皆勤賞頂いてますので……」
「もう喋るな。僕がついているから、何も気にせず休めばいい」
薪が氷水で冷やしたタオルを額にあてがうと、青木は素直に目を閉じた。
地味顔に分類するにはあまりに勿体ない(と個人的に常々思う)青木の整った寝顔を眺めながら、薪は考える。
高齢の母と幼い子どもとの三人暮らしのなかで、青木は常にたった一本の支柱だ。
職場でも長を務めるこいつが寄りかかれる相手は、公私ともに僕一人なのかもしれない、と。
「………おそらく看病疲れだろう。僕の父も、僕が熱を出すと治りがけに決まって倒れていた記憶がある」
こんなときに限ってまた零れだす薪の思い出話を、青木は薄らぐ意識に刻み込んだ。
両親の深い愛情のもとで育った少年と、大きな図体の誰かの介護に慣れた日常が、どうやって結びつくのか。いつか口走っていた“人殺しの実親”とは誰のことなのかも………謎は増すばかりだ。
薪のことをもっと知りたい。
でも今は、受けとめて抱き締めたい思いが空を切り、重苦しい眠りのなかに体ごと不甲斐なく沈んでいくばかりだ。